がんばれ、加藤麻理子。
障害は、馬と跳ぶ。アテネ五輪への道。


先日のイタリアからの報告の後、
加藤選手からdarling宛てに、
以下のようなメールが届きました!

対談は、後半から、
「日本では勝てていた自分が、
どうして海外でなかなか上位にくいこめないのか」
という加藤選手の悩みに対して、
こういう風に考えたらどうでしょう、
とdarlingが、あるお話をしました。
キーワードは羽生善治さん、なんです。
後半も、ぜひお楽しみに〜。

 イタリア遠征から18日の早朝に
 ドイツに無事戻ってきましたが、
 その最終週のPineroloでのグランプリで
 6位入賞しました。
 糸井さんのおかげです!!!
 国際試合AランクのGPでの6位以内は、
 日本人としても数少なく、
 女性では今年最高の成績です。
 (自分で書くのは変ですが...。)



第5回  シドニー五輪選考会で、転落。




糸井 ヨーロッパ全体でいうと、
馬術競技をしている選手の中で、
女性の比率っていうのは、どれくらいなんですか?
加藤 多い、と思います。
あ、多いといっても、3割くらいですが(笑)。
糸井 まあ、多くはないけど、
思ったよりも多いですね。
馬術は、男女がまったく平等に扱われる競技らしいですね。
女性だから、得なことってあるんですか?
軽いとか?
加藤 いや、年齢制限なし、重量制限なし、何もないですが、
女性が馬に対するフィーリングは、
男性より優れてると、自分では思ってるから、
これまで世界でもやり続けられてるんだ、
というのがあります。
女性の方が、馬の気持ちを感じやすいというのは、
あると信じてますね。
糸井 肉体的に、筋肉量が足りなくて不利だとか、
そういうのはないんですか
加藤 ないと思います。
どれだけ馬に応えてあげようと思うか
馬が、集中できるように考えていけば、
うまくいくと思います。
糸井 「ニュースステーション」で、
馬と呼吸を合わせるっていう話をなさってましたよね。
それは、なんだか、とっても、わかったんです。
頭でじゃなくて、気持ちがわかったんですよね(笑)。
「落ちたときに、呼吸を合わせられなかった」と
あのインタビューでおっしゃっていましたけど、
呼吸を合わせるっていってることは、
どんなふうなことなんですか?
加藤 障害数が、だいたい、
1ラウンド15〜20コぐらいあるんですけども、
全部クリアしないといけないんです。
その20コの障害の、
向こう側に行こうという気持ち、
バーを落とさないで行こうという気持ち、
どこから踏み切るか、という判断、リズム、
それからファイティングスピリッツ。
この全部を馬と私が、同じに合わせたときに、
初めて全部を越えられるんです。

私の目線と馬の目線が、一緒じゃないとだめなんです。
糸井 うんうん。
加藤 障害と障害の間の距離も一定ではなくて、
短かったり長かったりしているんです。
糸井 リズムを壊させちゃうような置き方をしてる?
加藤 そう、わざとなんですが。
その、ショートなりロングなりの障害を、
馬が力まず、いつもと同じ感覚で跳ぶには、
やはり上に乗ってる人間が、
それを誘導しないといけないんですね。
柔らかさ、柔軟さを。
で、20コ柔軟さを追及すると、
普通は呼吸が合ってくるんですよ。
でも、あの、シドニーのときの失敗は、
それが合わなくなった。
糸井 あの様子は、
加藤だけがあせってるっていうふうに、
僕らも見ますね。
加藤 そうですよね、ほんっとに‥‥。
糸井 馬はまだ、それだけ熱くないんだけど、
乗ってる加藤さんのほうは、
先の先を見てる感じがして。
加藤 いや、もうね、真っ白、
真っ白というか、
もう、これでうまくできなかったら‥‥。
糸井 なまじ、それまでがうまくいっちゃったから?
加藤 予選会で、最終ラウンドまで、
2位でいけたんです。
で、まあ、普通にいけばほとんど
オリンピック出場は確定と思ってたんです。
スタートする前に、ここでやらなかったら、
今までの苦労が水の泡、
ここで絶対やらなきゃいけない、って力入っちゃって。
ほんとに、自分だけの世界に入ってました。
糸井 うーん‥‥。
加藤 それが、馬に伝わるんです。
で、馬も頑張らなきゃ!と思ってしまって。
何が何でも跳んでやんなきゃ、
というように思ったみたいで。
糸井 馬も思っちゃったんだ(笑)。
加藤 そうなんです。
糸井 その意味で、気持ちが一緒になってはいたんだね(笑)。
じゃ、馬がもうちょっと、
逆に、気合い入れてなければ、
それは無理だよ、っていってスピード落としたりとか、
そういうこともあったかもしれないんだ。

うわー、いい話だね(笑)。
加藤 そうですねー。
馬も、ほんとにキャラクターが1頭1頭違うんです。
あれは牝馬だったんですね。
糸井 私たち頑張りましょう、って感じ?
加藤 なんかもう、お母さんみたいな気持ち、と言いますか。
「火の中でも飛び込んであげる」っていうような、
殺気立ったものがあって。
それを私が馬に伝えてしまったんですね、
最初のスタートから。
糸井 うん。
加藤 いつも、力とフィーリングの強弱があるんですけども、
まったく、その、「弱」がなくて。
糸井 こっちの意志を伝えるのは、
脚と、手綱を持ってる手なんですか?
加藤 そうです。
サラブレッドっていうのは、
手綱を思いっきり短く持つじゃないですか。
で、脚を動かして、それから、鞭を入れますけども、
手綱を持つと、引っ張られるから逆に行くんですよ。
糸井 あ、やめてくれ、っていって走るんだ。
加藤 だんだんエキサイトするんですね。
糸井 はぁ。
加藤 競馬馬は、そういうふうにできちゃっているので、
やったら危ないんですけども、
乗馬の場合にも、そういうホットな、
エキサイトしやすい馬に乗って、怖い人は、
すぐ手綱をもって引っ張る。
そうするともっと危ないんです。
私はスタート前に、
馬に、そういう伝え方をしたんですね。
それはいけないんです。
糸井 はぁー、自分に気合い入ってるから。
加藤 そうです。
糸井 それ、後でわかるんですか?
そのときにはわかんないんだ。
加藤 わかんないんですよ。
糸井 だからこそ、大会ってたくさん出てないと
勝てないんだね。
加藤 そうですね。自分を忘れちゃいけないのに。
糸井 小さいときからずっと乗ってきても、
それだけ大きい大会になると、
すっかり忘れることもあるんだなあ。
加藤 だいたい、あんな大転倒は、普通はないですね。
珍しいです(笑)。
糸井 手綱から手は離れてはいたんですか。
加藤 いや、持ってました。
糸井 なんか、こう観覧車みたいに動いたように
見えたけど。
加藤 障害から2メートル手前ぐらいから、
馬が、ぐぐっと行ったので。
そこに、遠心力で離れて。
で、馬が転んだので前にパカッと。
糸井 落ちた瞬間って、
「イタタタ」でもなんでもないんですか?
加藤 馬、大丈夫かな?と思って。
夢みたいに思えました。
糸井 そういうの、やった人にしか、
絶対にわからないことだから、
ぼくが想像してもきっと外れてるでしょうね。
馬は、無傷だったんですか?
加藤 奇跡的に。
ほんとなら、脚の骨を折ったり首の骨を折ったりしても、
おかしくない転び方でした。
糸井 ゆったりして見えても、激しいんだよなあ。

(つづきます)

2003-09-24-WED

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