| 糸井 |
ヨーロッパ全体でいうと、
馬術競技をしている選手の中で、
女性の比率っていうのは、どれくらいなんですか? |
| 加藤 |
多い、と思います。
あ、多いといっても、3割くらいですが(笑)。 |
| 糸井 |
まあ、多くはないけど、
思ったよりも多いですね。
馬術は、男女がまったく平等に扱われる競技らしいですね。
女性だから、得なことってあるんですか?
軽いとか? |
| 加藤 |
いや、年齢制限なし、重量制限なし、何もないですが、
女性が馬に対するフィーリングは、
男性より優れてると、自分では思ってるから、
これまで世界でもやり続けられてるんだ、
というのがあります。
女性の方が、馬の気持ちを感じやすいというのは、
あると信じてますね。 |
| 糸井 |
肉体的に、筋肉量が足りなくて不利だとか、
そういうのはないんですか |
| 加藤 |
ないと思います。
どれだけ馬に応えてあげようと思うか、
馬が、集中できるように考えていけば、
うまくいくと思います。 |
| 糸井 |
「ニュースステーション」で、
馬と呼吸を合わせるっていう話をなさってましたよね。
それは、なんだか、とっても、わかったんです。
頭でじゃなくて、気持ちがわかったんですよね(笑)。
「落ちたときに、呼吸を合わせられなかった」と
あのインタビューでおっしゃっていましたけど、
呼吸を合わせるっていってることは、
どんなふうなことなんですか? |
| 加藤 |
障害数が、だいたい、
1ラウンド15〜20コぐらいあるんですけども、
全部クリアしないといけないんです。
その20コの障害の、
向こう側に行こうという気持ち、
バーを落とさないで行こうという気持ち、
どこから踏み切るか、という判断、リズム、
それからファイティングスピリッツ。
この全部を馬と私が、同じに合わせたときに、
初めて全部を越えられるんです。
私の目線と馬の目線が、一緒じゃないとだめなんです。 |
| 糸井 |
うんうん。 |
| 加藤 |
障害と障害の間の距離も一定ではなくて、
短かったり長かったりしているんです。 |
| 糸井 |
リズムを壊させちゃうような置き方をしてる? |
| 加藤 |
そう、わざとなんですが。
その、ショートなりロングなりの障害を、
馬が力まず、いつもと同じ感覚で跳ぶには、
やはり上に乗ってる人間が、
それを誘導しないといけないんですね。
柔らかさ、柔軟さを。
で、20コ柔軟さを追及すると、
普通は呼吸が合ってくるんですよ。
でも、あの、シドニーのときの失敗は、
それが合わなくなった。 |
| 糸井 |
あの様子は、
加藤だけがあせってるっていうふうに、
僕らも見ますね。 |
| 加藤 |
そうですよね、ほんっとに‥‥。 |
| 糸井 |
馬はまだ、それだけ熱くないんだけど、
乗ってる加藤さんのほうは、
先の先を見てる感じがして。 |
| 加藤 |
いや、もうね、真っ白、
真っ白というか、
もう、これでうまくできなかったら‥‥。 |
| 糸井 |
なまじ、それまでがうまくいっちゃったから? |
| 加藤 |
予選会で、最終ラウンドまで、
2位でいけたんです。
で、まあ、普通にいけばほとんど
オリンピック出場は確定と思ってたんです。
スタートする前に、ここでやらなかったら、
今までの苦労が水の泡、
ここで絶対やらなきゃいけない、って力入っちゃって。
ほんとに、自分だけの世界に入ってました。 |
| 糸井 |
うーん‥‥。 |
| 加藤 |
それが、馬に伝わるんです。
で、馬も頑張らなきゃ!と思ってしまって。
何が何でも跳んでやんなきゃ、
というように思ったみたいで。 |
| 糸井 |
馬も思っちゃったんだ(笑)。 |
| 加藤 |
そうなんです。 |
| 糸井 |
その意味で、気持ちが一緒になってはいたんだね(笑)。
じゃ、馬がもうちょっと、
逆に、気合い入れてなければ、
それは無理だよ、っていってスピード落としたりとか、
そういうこともあったかもしれないんだ。
うわー、いい話だね(笑)。 |
| 加藤 |
そうですねー。
馬も、ほんとにキャラクターが1頭1頭違うんです。
あれは牝馬だったんですね。 |
| 糸井 |
私たち頑張りましょう、って感じ? |
| 加藤 |
なんかもう、お母さんみたいな気持ち、と言いますか。
「火の中でも飛び込んであげる」っていうような、
殺気立ったものがあって。
それを私が馬に伝えてしまったんですね、
最初のスタートから。 |
| 糸井 |
うん。 |
| 加藤 |
いつも、力とフィーリングの強弱があるんですけども、
まったく、その、「弱」がなくて。 |
| 糸井 |
こっちの意志を伝えるのは、
脚と、手綱を持ってる手なんですか? |
| 加藤 |
そうです。
サラブレッドっていうのは、
手綱を思いっきり短く持つじゃないですか。
で、脚を動かして、それから、鞭を入れますけども、
手綱を持つと、引っ張られるから逆に行くんですよ。 |
| 糸井 |
あ、やめてくれ、っていって走るんだ。 |
| 加藤 |
だんだんエキサイトするんですね。 |
| 糸井 |
はぁ。 |
| 加藤 |
競馬馬は、そういうふうにできちゃっているので、
やったら危ないんですけども、
乗馬の場合にも、そういうホットな、
エキサイトしやすい馬に乗って、怖い人は、
すぐ手綱をもって引っ張る。
そうするともっと危ないんです。
私はスタート前に、
馬に、そういう伝え方をしたんですね。
それはいけないんです。 |
| 糸井 |
はぁー、自分に気合い入ってるから。 |
| 加藤 |
そうです。 |
| 糸井 |
それ、後でわかるんですか?
そのときにはわかんないんだ。 |
| 加藤 |
わかんないんですよ。 |
| 糸井 |
だからこそ、大会ってたくさん出てないと
勝てないんだね。 |
| 加藤 |
そうですね。自分を忘れちゃいけないのに。 |
| 糸井 |
小さいときからずっと乗ってきても、
それだけ大きい大会になると、
すっかり忘れることもあるんだなあ。 |
| 加藤 |
だいたい、あんな大転倒は、普通はないですね。
珍しいです(笑)。 |
| 糸井 |
手綱から手は離れてはいたんですか。 |
| 加藤 |
いや、持ってました。 |
| 糸井 |
なんか、こう観覧車みたいに動いたように
見えたけど。 |
| 加藤 |
障害から2メートル手前ぐらいから、
馬が、ぐぐっと行ったので。
そこに、遠心力で離れて。
で、馬が転んだので前にパカッと。 |
| 糸井 |
落ちた瞬間って、
「イタタタ」でもなんでもないんですか? |
| 加藤 |
馬、大丈夫かな?と思って。
夢みたいに思えました。 |
| 糸井 |
そういうの、やった人にしか、
絶対にわからないことだから、
ぼくが想像してもきっと外れてるでしょうね。
馬は、無傷だったんですか? |
| 加藤 |
奇跡的に。
ほんとなら、脚の骨を折ったり首の骨を折ったりしても、
おかしくない転び方でした。 |
| 糸井 |
ゆったりして見えても、激しいんだよなあ。
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