おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson155 教えたがる精神 教えたがり、教わりたがり。 ここにコラムを書きはじめたころは、 私も、教えたがりの人間だった。 編集担当の木村さんにも、 先輩風ふかしたと思う。 「私は、16年も編集者やってきたのよ、 教えてあげるわよ」 恥かしー! 自分、ちっちぇー! 3年たったいま、つくづく思う。 何かの分野のプロだったとしても、 簡単に他の分野に当てはまると思ったら大まちがいだ。 教育編集とネットの編集は、ずいぶん違う。 ネットの編集は、 ネットの編集をやって続けた人にしかわからない。 浴びる情報量、 それを受け止めるリアル感、 日々の身体の訓練がまるでちがう。 実際にやってみないとわからないことは、ずいぶんある。 同じネットにコラムを書くといっても、 ジャンルによって、観ている世界も、その人のスキルも、 また、がらっと違うのだろう。 企業にいたときの私は、 なぜあんなに簡単に、人に意見ができたのだろう? なぜあんなに簡単に、「ご意見どしどし下さい」と 言えたのだろう? 批評されたがり、批評したがり。 いま、考えるとそこは、「効率」の世界だったなと思う。 より高い目標に、よりまちがいなく、より速く、 近づくには必要で、視野も広がる。 だが、私は、時折ふっと、 なんか先細る感覚に襲われていた。 あの感覚はなんだったろう? 組織は、同じ目標に向かっていた。 どっか、何か、自分がやろうとしていることを 先に経験して、成功して、ノウハウを持った先輩がいた。 それを探して、吸収して、その先へ、その先へ。 だから、自分の身の丈を超えた目標達成ができるのだ。 あのころ、自分が担当して 月々出していた利益や、仕事の規模を想像すると いま、ちょっと、くらくらしてしまう。 私が成果を出したなら、そのノウハウも、 後輩へと使われていく。 後輩は、私の通った道をなぞる暇さえなく、 その先へ、その先へ、さらに結果を出すようかりたてられる。 また、それができてしまうから、後輩もすごく優秀だ。 長く同じ方向を向いて、 同じ仕事の筋肉を進化させ続けていると、 自分の中に、使われない筋肉というか、能力・感覚が出てくる。 他者が編み出したノウハウにのっかって、その先へ急ぐと、 自分で編み出したものじゃないから、 納得感が置き去りになる。 それが、私がときおり、ふっ、と感じていた、 先細りの感覚だったのだろうか。 たぶん、無意識のうちに身体が警告を発していた。 「人が持てる潜在力のうち、 一生に使われるのが3%みたいな話をされるけど、 このまま眠らせちゃだめだ。 使われていない、自分の潜在力、試そうよ、 生かそうよ。」 会社をやめてからこの3年間は、 高い目標達成より、自分の潜在力を生かすことを 求めてきたような気がする。 その歩みは「生産効率」というモノサシで測ると 後退としかいいようがない。 だが、「潜在力を生かす」というモノサシで測ると、 この3年間に、使っていなかった潜在力が いくつかの、小さな小さな芽を出した。 不思議に先細る感じがない。 一人になって、仕事をはじめた当時は、 先輩なし、同僚なし、ご意見ちょうだい、いっさいなしで、 自分の腹から出てきたものが、 そのまま形になる。その一切の責任を負う。 恐くてしかたがなかった。 だが、やってみないとわからないことが多くて。 やってることは、みんな、私の腹から出てきたことで、 それを実際にやって、身体でつかんだものは、 納得感がまるで違う。 3年間、闇の中を手探りで、へっぴり腰で歩いてきた。 そのさまは、いまふり返っても、ちっちゃく、おかしく、 そして、愛しい。 私は、こうやって、みんなが、愚かと言う道でも、 自分で歩いて、歩き通してみて ひとつひとつ、体でつかんでいくことが、 面白いんだなあと思う。 そして、どうやら人の批評を瞬時に自分に取り込めるほど、 頭が高級にできていないらしい、 とても、不遜なことだが、 経験者や、傍観者、その道の達人が、 やめとけ、ということでも、 笑われても、 自分にとって、どうしても避けて通れない道ならば、 これからは闇の中を胸はって、堂々と歩いていこうと思う。 『伝わる・揺さぶる!文章を書く』 山田ズーニー著 PHP新書660円 内容紹介(PHP新書リードより) お願い、お詫び、議事録、志望理由など、 私たちは日々、文章を書いている。 どんな小さなメモにも、 読み手がいて、目指す結果がある。 どうしたら誤解されずに想いを伝え、 読み手の気持ちを動かすことができるのだろう? 自分の頭で考え、他者と関わることの 痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。 (書き下ろし236ページ) |
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2003-07-09-WED
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