YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson157 ネットで批判が難しい理由

批判は、「何を言われるか?」より
「だれに言われるか?」がおおきい。

読者のりえぞーさんはいう。

批判を自分が素直に
受け入れることができた経験について考えた。
意見の内容はさておき、

「こいつがこう言うんだから、きっとそうなんだろうな」
と、相手のことを信頼できる場合には、
だいたいすんなり批判めいた意見でも聞くことができた。

逆に、批判を受け入れられないのは、
言ってる相手のことを好きでないとき、
よくわからないとき。

人を育てる批判とは、
一番に、信頼する人からのそれであると思う。

人の意見でなく、人そのものが人を育てると、そう思う。

(読者 りえぞーさんからのメール)



ネットのコミュニケーションでおおきいのは、
「だれが言ってるのか?」が見えない、ことだ。

たとえば、ネットの中で、私が、
「ちょっとあんた、あんたの文章の考え方
それは許せん! 文章をなめたらいかん!」
と批判をやってみるとする。

相手にとってみれば、
「ハンドルネーム、ズーニー? 誰じゃこれ?」
相手は、私のことを知らないから、
にわかに、私を「うさんくさい」と感じる。

そこで、「わたしはだれか?」を説明するとする。

「私、ズーニーは、
高校生の小論文教育から出発して、
もう17年も、ずっとずっと
文章教育にかかわっている者でして、
こんな本も出し…、あんな活動もし…、」
とやるとする。

さらに、うさんくさい。

要するに「私は文章にかけては、プロなんだぞー!
私の批判をありがたがれー!」ってことか、と、
たのまれもしないのに自分の経歴を
とうとうと並べると、なぜか、ますます、うさんくさい。

ネットの場で、「わたしはだれか?」を、
肩書き・経歴・立場など
外側から固めて、証明しようとすれば、するほど、
「だから何なの?」になってしまう。

たとえば、現実の場で、
「偉い、エライ」とまつりあげられている人が、
自分がありがたがられたいという気持ちのまま、
ネットにくると、この「対等感」に打たれる、
もしくは、立腹するんじゃないだろうか?

ネットの門をくぐるとき、
王さまも、冠をぬがなくてはならず、
輝かしい経歴の持ち主も、ここにひきずっては来られない。

ネットでは、意見そのものが、
「わたしはだれか?」を雄弁に語る。

自分が言っていることが、
そのまま、自分が何者であるか?
の存在証明になる。

まだ、現実の場なら、容姿や、たたずまい、
持ち物や服装、声色・表情などに自分を語らせることも
できるが、そうした効果はいっさいないから、
「言ってること」=「自分」だ。

だから、深い理解や共感は、
外見も、距離も、立場も飛び越えて、一発で通じ合う。
「言ってること」=「自分」=「相手」、共感は瞬時だ。

相手は、その人の「言ってること」を信じられるから
一発で、その人という「人間」も信頼する。

でも、批判は、唯一の自己証明である
「言ってること」=「相手への批判」なのだ。

私が、ネットで批判をするとしたら、
私としては、文章指導にかけてきた自分、とか、
経験を通してこそ言えること、とか、
伝えることを大切に考えてきたからこそ許せないこと、とか、
いろいろ文脈があってやるだろうと思う。

けど、そういった文脈をまったく知らない相手にとっては、
道をあるいていて、いきなり知らない人から頭をたたかれる
ようなものだ。即座にその知らない人を警戒するだろう、

「だれだ、このよくわからんズーニーって奴は?」

相手は、いったいどうやって、批判の前提となる
「ズーニー」という人間を信頼したらいいのだろう?

言葉は、信頼関係の中ではじめて力を持つ。

批判ができないのではなく、
批判ができるだけの信頼関係がつくれない。

だから、ネットでの批判は、
そうとうに討ち死にの確率が高いのではないかと思う。
それは、自分の言葉の無力、メッセージの討ち死にというよりも、
自分の誠意に反して、ただ相手から嫌われ、うとましがられ、
ただ相手への影響力や発言力を失っていくだけの、
ハンドルネームの死ではないだろうか?




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2003-07-23-WED
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