YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson165 解決策を相談されたら?


友人から、悩み相談を受ける。
「ねえ、どうしたらいいと思う?」

そこで、いろいろと思いつく、解決策を出してあげる。

「ジャスト、アイデアだけど……」と言っては1案出し、
「私が以前、使った手なんだけど…」と、もう1案、
「あんまり現実的でないかもしれないけど…」と、もう1案、

ところが、相手は、その1つ1つに難色をしめし、
しまいには、「あなた、私のこと、わかってない!
他人のことだから、どうでもいいと思ってるんでしょ!」
なんて、怒り出し、

「なんだよ、そっちが、相談にのってくれって言うから、
 一生懸命、考えてやってるんじゃないか!」
と険悪なムードになった、なんて経験、ありませんか?

解決策は、と聞かれて、解決策から考えてはいけない。

いま、講演シーズンで、さまざまな質問を受ける。
入試や、就職の小論文で、
「解決策は?」 と問われて、解決策を、
「志望理由は?」 と問われて、志望理由を、
誠実に考えて、ゆきづまっている人、
案外、多いと気づかされる。
しかも、こういう人たち、とても知的な印象を受ける。
ずいぶん頭がよさそうなのになぜかな、と思う。実際、

「問題の現状 ⇒ 解決策」

と、一足飛びの答案、かなり多いのだ。
「はやっ!」と読んでいて、思わず声が出てしまう。
そこで、次の、カッコの部分が重要になってくる。

「問題の現状 ⇒ (       ) ⇒ 解決策」

原因は、何なのか? 
一番の問題点は、何なのか? 
自分なりに、踏み込んで問題を分析してみる。そして、

原因、あるいは、一番の問題点を相手と共有する。

これができたら、そのあと、
こちらがいろいろな解決へのアイデアを出しても、
相手は、そのアイデアが、何を根拠に出てきたものか、
わかるために、唐突な印象は受けない。

入試に問われる、環境問題などはもちろんだけど、
日常で相談されるような、人間関係や、仕事の悩みも、
原因が「ひとつ」から起こっていることはほとんどない。
「複雑な原因」から生じている。

部分的な解決策を出しても、
全体から見れば、不都合だったり、
かといって、全体がすっきり解決する万能の策など
短時間で出せるはずもない。
つまり、どんな解決策を出しても、
相手は、いかようにも、突っ込みができる、ということだ。

八方すべておさまる解決策などない、とすれば、
結局、解決策というものは、
何を取り、何を捨て、
未来に向けてどう踏み出すのか、という
その人の意志に関わる問題だと言える。
リスクをとらないと、解決策も手にできない。

そこで、2手先に進んで、
この問題が解決できたとして、その先、どうなりたいのか?
を、想い描いてみる。

問題の現状⇒分析⇒解決策⇒問題解決⇒理想の未来

この未来のビジョンが、相手と共有できれば、
相手は、アイデアが、何のために出されているのか
わかるために、万能策でなくとも、納得感がある。

「解決策」が求められたら、
1手戻って、「原因」や「問題点」を共有し、
2手進んで、未来の「ビジョン」を共有し、
この2つを結んだ線上で、アイデアを語れば、
たとえそれが、万能の策などではなくとも
納得感がある、というわけだ。

だから、小論文の受験生なら、
環境問題や、国際問題など、出口のない難問を与えられて
解決策を求められた時、

1手戻って、原因や背景、問題点を分析する。
2手進んで、
自分が将来進みたい分野で理想の社会を考える。
この二つを結んだ、線上で、解決策を探る。
というのも、1つの方法だ。

例えば、将来、教育を志す受験生なら、
環境問題への万能の解決策は出せなくとも、
複雑な原因の中で、
自分は、環境に関する教育に重きを置く。
将来、自分は、教育の仕事で、
子どもの環境への意識をこのように高めていきたい。
と、志望へつづく線上で、
問題分析、問題解決を図ってみる。

法学部に進みたい人は、法律、
経済学部に進みたい人は、経済と、
自分の意志と関わらせて解決策を探るという1つの方法だ。

同じく、人から、「どうしよう?」と相談されたら、
「どうしよう?」と策を考え出す前に、
1手戻って、原因や問題点を、
2手進んで、問題が解決できたとして、そして、その先、
どうしたいのかという相手の意志を、
確認するといいのではないだろうか。

「どうしよう?」と不安な声に、
「どうしよう?」と、
一緒になって考えてあげるやさしい人が増え、
「どうしよう?」、「どうしよう?」が、
逆に相手を追いつめてしまい、
そこから、一気に、
あまりにも安易で、短絡的な行動に出る。
なにか、そんなシーンが増えているような気がする。





『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2003-09-24-WED

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