おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson168 ありがとう あなたにお礼が言いたくて、これを書いています。 もうすぐ、はやければ今週末にも、 私の本がでます。 あなたのおかげです。 と言ったら、あなたは、 「見えすいた社交辞令を…」と思うだろうか? でも、3日前、 本の見本が、一人の仕事部屋にとどいたとき、 南伸坊さんの美しい装丁を手にとって、眺めているうち、 うっすら涙がにじみ、なんとも言えない感慨があった。 「この気持ちを、はやくだれかと分け合いたい。 真っ先に、だれに見せようか?」 と考えたとき、 まず「あなた」だ。 と、私は、本気で思ったのだ。 それで、3日間、人に会っても見せないで がまんしていた。 まず、あなたに見せ、ひと言、お礼を言ってから、と。 本当にありがとう。 おかげで、本は、生まれました。 この本は、ほぼ日に連載をはじめてから、 最初にいただいた単行本化の企画だった。 その意味で、無名の新人である私に、 あなたが最初に機会をひらき、育んだ本だと言える。 だから、お礼をいわずには、おられないのだ。 企画をつめるうち、 このコラムの単行本化でなく、新しく書き下ろそう、 ということになったが、 ここで、あなたと私が、考えたり、感じたりしている 何かが出版に通じたことに変わりはない。 だから、ありがとう。 あなたは、あまり実感がわかないかもしれない。 ただ、クリックするか、しないか、 読むか、読まないか、 読んで、何かを感じるか、感じないか。 一瞬の、内面に起きる反応が、 こうして、離れただれかの現実を動かしていることに。 だが、私にしてみると、 その力に、打たれたり、励まされたり、 突き動かされて、この3年半に見る風景が、 どんどん変わってきている。 あなたの存在を想わずにはいられない。 以前、このコラムにいただいたメールに、 「ドラムが鳴っているとき、 鳴っているのは、ドラムだけではない。 バチも鳴っているのだ。」 という言葉があった。 うまくは言えないのだけれど、 毎回、ここで、しゃべっているのは、私だけれど。 実は、言葉にしなくても、気がつかなくても、 あなたも多くをしゃべっている。 このコラムから、時折、 深いものを感じたり、考えたりしてくださるとき、 あなた自身も、強く「鳴って」いる。 私が、どんなに緻密に書き込んで、 自己ベストの完成度をあげても、 いっこうに、あなた自身が「鳴らない」こともあれば、 スキマだらけの原稿で、私が、 書いた恥かしさに、 更新前までのたうちまわるような原稿でも、 あなたが、非常に強く「鳴る」こともある。 あなたは、私が出す音と、 それによって、無意識にあなたの内面で鳴り出す音と 両方を聞いているのだ、ということを、 私は、ここで、あなたから教えられた。 教育を志すものとして、媒介として、 私が目指す、面白い文章とは、 そういう、互いに響きあうような文章なのだと、 あなたに教えられた。 だから、ありがとう。 ものをつくる人の中に、 「いまどきの読者は」「いまどきの視聴者は」と、 くくって、わかったようなことを言う人がいる。 だけど、私は、正直、 3年半、あなたへの、謎は深まるばかりだ。 最初のころより、 もっと、もっと、私はあなたの反応がわからない。 それは、あなたという人物が、 わたしの予想では、決してつかめぬくらい 奥深いということであり、動いているということであり、 また、わたし自身が、 へっぴり腰の、予定調和な表現から、やっと 動き出そうとしているということかもしれない。 そこに希望がある。 あなたの反応がわからないからこそ、 投げかけてみたい、聞いてみたい「問い」に、 聞いた私も、聞かれたあなたも、 一瞬、頭が、真っ白になるような「問い」に、 これからの人生で、出くわしていくことも、 それを、勇気をもって、ここであなたに投げかけることも、 その時、あなたの中で、どんな音が鳴り出すのかも、 予想がつかないからこそ、本当にたのしみだ。 いまも、これからも、ほんとうにありがとう。 書店でこの本を見かけたら、「私が育んだ」と 胸を張って言ってください! 『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 筑摩書房1400円 おかげさまで、10月20日刊行です! 『伝わる・揺さぶる!文章を書く』 山田ズーニー著 PHP新書660円 内容紹介(PHP新書リードより) お願い、お詫び、議事録、志望理由など、 私たちは日々、文章を書いている。 どんな小さなメモにも、 読み手がいて、目指す結果がある。 どうしたら誤解されずに想いを伝え、 読み手の気持ちを動かすことができるのだろう? 自分の頭で考え、他者と関わることの 痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。 (書き下ろし236ページ) |
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2003-10-15-WED
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