YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson181 病気の人に

家族がしょっちゅう風邪をひくようになった。

先日、電話がかかってきて、
また風邪をひいている、というので、

「素人考えで、市販の薬をのんでちゃだめ、
 ちゃんとお医者さんに行って」
というと、うるさがられた。

それでは、と、
私の体験談を話そうとした。
「ここのところ、歩いたり、泳いだりよくするので
 私は、風邪知らずで……」
と言いかけたら、間髪を入れず、こう言われた。

「あんたに、教えられとうはない。」

ああ、そっか、そうか……、
またやってしまった……、と私は、反省した。
「自分の目線」が高くなっていたのだ。

人が病気だと知ると、私たちは、つい、教えたがる。

「医者には行ったか? だめじゃないか!」
「運動をしないからよ。」
「無理するからよ。仕事もほどほどにしないと。」
「あれを食べろ。」
「睡眠をとれ。」
「こうしろ。」
「ああしろ。」

でも、そこには、知らずに、
「病気になった人間は、自己管理ができていない」
という判断がまぎれこんでいる。

そして、「アドバイスをする」ということは、
大なり小なり、
「わからないだろうから教えてあげる」という行為で
相手より、自分の目線が高くなっている。

それが、相手のプライドをくじく。

しょっちゅう風邪をひいている人の目からみると、
ただでさえ、風邪で、
身心が弱ったり、集中力がおとろえたり、
鼻水などで、イライラしているところへ、会う人ごとに、

「お医者さんに行きなさい」
(自分で医者にいくかどうかの
 見極めもできないやつだと思われ)
「働きすぎだ」
(自分の仕事管理もできない人間だとみなされ)
「ちゃんと食べてるの?」
(日ごろから食事もちゃんとしてないんだろうと思われ)

会う人ごとに、「教えてあげる」攻撃にあってると、
身体の中に、なにかがたまる。
それらの多くは、ありがたいことだとわかっていながらも、
どっかで、「そんなこと、わかっとるわい!」
「自分の風邪くらい、自分で直せるわい!」
「あんたには、言われたくないわい!」
という気持ちも少しは、あるんだろうな。

でも、他人さまには、そんなこと、言えないし、
思ってもいけない。無意識に、弱者として扱われる。
無意識に、澱がたまる。

だから、気の許せる家族にくらい、
「うるさい!」「わかっとるわい!」と言いたくなるのも、
考えたら、もっともなことだ。

ふだん対等な相手、
場合によっては、親とか、自分が師と仰いでいる人物でも、
相手が、病気になると、
なぜ、自分の目線が、相手より高くなるのだろうか?

どうもそこには、
「病気は、その人自身の悪い行為の結果である」
=自業自得。
「私が今病気になってないのは、
 私がちゃんとやってるからだ。」
という無意識の見方があるんだろうな。

そういう場合もあるだろうけれど、
そうじゃない場合もある。そうじゃなかったら、どうする?

私は、私より、数段、よく自炊し、
身体によいものを、日ごろから努力して食べて、
それでも、私より、風邪をひきやすい人を知っている。

私より、よっぽど、運動している人、
私より、よっぽど、生活や仕事の管理能力が高く、
それでも、私より、風邪をひきやすい人を知っている。

その人なりの、そういう日々の営みやささやかな努力を、
知っているだろうか?
尊重できているだろうか?

病気=その人の悪しき行いの結果と、
すぐ結びつけるのでなく、
「その人が悪いから風邪になった」のではなく、
「ウイルスに感染したから風邪になった」のだ。

「ちゃんとしている人でも、
強力なウイルスに感染すれば風邪をひく」
「人は、風邪ぐらいひく」
「病気には、ふせぎようがないものもある」

病気に限らず、
失業して仕事を探しているとか、
失恋したとか、
何か、うまくいっていない人にむかうと、
私たちは、たのまれもしないのに、つい教えようとする。

相手を思うあまり、心配するあまり。
でも、そのアドバイスが絶対効くと自分には思える
そんなときこそ、私は、自分に問うていこうと思う。

相手は「自分に」アドバイスを求めているのか?
自分の目線は、相手より高くなっていないだろうか?




『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2004-01-21-WED

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