Lesson253 毒2
(今週のおとなの小論文は、月曜日にも更新されました。
月曜の「毒1」が読みたいという方はこちらをどうぞ)
新刊『考えるシート』が早くも重版になった。
この本は、雪のように真っ白なシート部分に、
読者が、それぞれ、自分の「想いを書き込む」、
に、とどまらず、
さらにその、「想いが伝わる」ことで、
感動的なラストをむかえるよう造られている。
書店から、一冊、また一冊ととられていく本に、
どんな百人百様の想いが刻まれるのか、
それが、だれに、どんなふうに伝わって、
どんなストーリーが生まれていくのか。
いま、まさに、本から生まれ出ようとしている、
いくつもの「現実の物語」に、
おさえても、胸が高鳴ってしまう。
ご報告も、まだでした。
話が前後しますが、
おかげさまで新刊『考えるシート』がでました。
ネットの大海のなかに、
この小さな小さな教室が生まれてから
3冊目の本です。
機会を運び、世に出してくださった、あなたに感謝です。
ありがとうございます!
きょうは、ひきつづき、
ものづくりをするときの、
こんな問いを考えてみたいとおもいます。
「あなたが、仕事でも趣味でも、
とにかく、なにかつくるとして、
その中身が、1から10まであるとしたら、
1から10まで、ぜーんぶ磨きあげるようにして、
完璧にしあげたいですか?
じゃない、とすれば、じゃあ、
何を目指してる?」
わたし自身、
ものを書きはじめたころは、
一文、一句、いや、一語たりとも、
わたしのメガネにかなった言葉でなければ許せん!
とばかりに、細部の細部まで、
磨き上げるように表現を練り、
カンペキになれないんだけど、
カンペキを目指すほうだった。
それが、ここ最近は、
「自分の胸にコツっ、と触れた、
<これだ!>というもの」
例えば、違和感だったり、発見だったりを、
形にし、伝えきる、ことだけを目指し、
あらけずりでもいいから、
はやく一気にそこへ行こう、
と集中して書くようになった。
1から10まで、かわるがわる、
ゴシゴシ磨いているうちに、
いちばん伝えたい番号の勢いがなくなってしまう。
そんな気がするからだ。
いま、私がもっとも注目しているミュージシャンも、
1から10まで完璧を目指さなくていい、
とはっきり言う。
そのミュージシャンは、まだデビューしていなくて、
大切に音楽づくりをしている最中なので、
活動のさまたげにならないように、
ここでは「Cくん」とだけ呼んでおく。
韓国の太鼓、チャンゴをかき鳴らして、
謳い、踊り、跳ねる、Cくんに、
わたしだけでなく、
わたしのまわりの音楽にうるさい友人たちも、
一発で、心をもっていかれてしまった。
若干26歳のCくん、ちいさいころから
さぞ、音楽少年だったのだろうとおもったら、
なんと、音楽はぜんぜんやっていなくて、
大学を出てから初めてやったということだ。
彼の主宰するバンドも、まだ1年強。
しかし、みるたびに、どんどんよくなっていく。
いったい、そんな短い期間で、何にも似てない
オリジナルの、深みのある音楽がつくれるものなのか、
私は、腰が抜けそうになった。
「何人かであつまって、
何かやろうとおもったら、どうしてもずれる。
音やリズムがずれてもいいんだ」とCくんは言う。
たしかに、
Cくんのバンドができたてのころの音源を聞くと、
バンドのメンバー同士で、
音やリズムがあってないところがある。
音やリズムがずれている個所があるにもかかわらず、
どうしてか、私はまったく気にならなかった。
音楽にうるさい友人たちをも、一発でうならせた。
技術ってなんだろう?
完成度、ってなんだろう?
「音やリズムが少々ずれてもいい。
それより、どこを合わせるかだ。」
とCくんはいう。
日本の展開方法には、
「起・承・転・結」というのがある。
でも、韓国の太鼓、チャンゴを学んだCくんは、
「結」は終わりではなく、
それをもういちど「ほどいて」、
次のはじまりにつなげていく、
「結解」(けっかい)
という展開方法を用いている。
すなわち、
起・承・結・解 (き、しょう、けっ、かい)
起 … 音楽を起こして、
承 … ころがして、
結 … ヤマ(=クライマックス)があって、
解 … ほどく。
この、「結解」(けっかい)の
気持ちよさをどう表現したらいいか。
音楽が、じょじょに盛り上がり、登りつめ、
緊張感を最大限に増す。
そこが「結」=ヤマだとしたら、
登りつめたところから、
一気に緊張をほどき、くだる=「解」
登りつめて、ほどく、
登りつめて、ほどく、
結・解。
この登りつめて、
ほどかれる瞬間が聞く側にはたまらない。
「ヤマをあわせる」のだとCくんは言う。
他は少々、音やリズムがずれていい。
人が集まってなにかしようとしたら、
どうしてもずれるから。
でも、ヤマだけははずしてはいけない。
メンバーで「ヤマ」をあわせる。
一曲の中に、おおきな起・承・結・解があるとすれば、
一曲の部分、部分にも、ちいさな起・承・結・解がある。
この「ヤマ」を合わせる、
という音作り、バンドづくりを、
ことばでなく、
感覚で伝えながらやってきたのだとCくんは言う。
「伝わるものには構造がある」と、私は思った。
私が、文章指導をするときも、
初期の指導で、完成度はまったく問わない。
私が、文章指導をしていると知ると、
多くの先生方や、おとなの人が、開口いちばん、
「いまの若い人の言葉遣いがなってない…」
「敬語がなってない…」
「誤字や脱字が多い…」
「テニヲハが…」ということを問題にする。
でも、うまれてはじめて、自分の想いを書くようなときに、
字を間違ったり、言葉がみだれたり、
自分の位置がわからなくてテニヲハがおかしくなったり、
方言や、話し言葉が、つい、でてしまうのは
しかたがないことだ。
文章の初期指導で、わたしにも、
ここだけは、
はずしてはいけないとおもっている「ヤマ」がある。
「表現と、その人の一致」だ。
うそのない、実感のもてることだけを書いているか?
そのために、「考えているか」。
つまり、
「どのような問いがたっているか」をうるさく見る。
実感が持てる、本当のことが書けるようになり、
そこに「歓び」を感じてもらえたら、
そのあと、誤字や言葉遣いなどは、一気に挽回できる。
「どこへ行きたいか?」
Cくんは、それを、ライブの「ヤマ」と呼び、
私は、それを、講義の「ゴール」と呼ぶ。
「どこへ行きたいか?」がはっきりすれば、
やみくもに「完成度」をあげなくては、という
表現の強迫観念から、
私たちは、自由になれるのだとおもう。
せっかくの魅力につながる毒を抜いて、
万人に望まれる「いい人」の表現をする必要もない。
完成度ではなく、どこへ行きたいか?
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『考えるシート』講談社1300円
● 『考えるシート』刊行記念ワークショップ
「自分の想いを表現する」
日時:2005年6月25日(土)18:30
場所:新宿・紀伊國屋ホール
「想っていることがなかなかうまく言葉にできない」と
お困りの方へ。自分の想いを引き出し、整理し、
人に伝える方法をつかむ、たのしいワークショップです。
初めての人、内気な人も安心して参加できます。
チケット:キノチケットカウンターにて1000円(税込)
予約・問い合わせ:03−3354−0141
『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ) |