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その時に置かれていた状況や
着任してからの期間によって
考えていたことも
変わってきているかもしれないかなって
思いました。
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十文字 |
そうそう。
戦争が終わったのか、
終わってないのかってこととか。
もちろん自分が終わってないと思ってたから
戦い続けていたと思うんだけど、
終戦を知らせるビラがまかれたり、
家族の方が来たり、何度もやってますよね。
本を読むと
「戦争が終わったことは嘘だと思った」
と書いてあるけど、
嘘だと思ったとしても、
心のどこかで
「もしほんとに戦争が
終わってたとしたら、
自分はいったい何だったんだろう」とか
「自分はいったい今何をしてるんだろう」とか
考えなかったのかな。
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まだまだお話になっていないことが
たくさんありそうですよね。
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十文字 |
「こんなことを言っても、
きっと誰にも理解されないだろうな」
って思って、心にしまわれてることも、
あるんじゃないのかな。
もし小野田さんがぼくの父親だったら、
もうつかまえて離さないぐらいに、
いろいろなことを訊いてみたいよ(笑)。
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小野田さんの講演に出てきた
帽子が2年で腐る話とか、
考えてみたこともなかったことですからね。
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十文字 |
うん、すごかった。
ルバング島での自分の人生は
60歳までだと思ったって。
仮に、それを思ったのが
35歳だとするじゃない。
35から60歳までの残りの25年間を振り分けて、
自分にとっていちばん大切なのは「弾丸」だと。
だから自分が持ってる銃の弾を25分割して、
1年間に使える弾の数は何発だと計算して、
残りは、ちゃんと腐らないように、
保管してた。
なぜ自分の人生が60歳だと思ったんだろうって
不思議じゃない?
そしたら、本に出てきたんだけど、
殺した牛を担いで歩ける肉体を
保っていられるのは、
60歳までだと思ったんだって。
だから60歳からあとは、
生きてるかもしれないけど、
じり貧になって、
肉を担いで歩くことも
何々することもできないって、
できないっていうことがいっぱい出てきて。
それは「自分は戦闘することはできない」
ってことだったんだよね。
「自分は戦争をすることが目的で、
残ってるわけで、
生き残りたくて残ってたわけじゃない」
って言うんですね。
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戦うために生きてる。
だから戦うだけの体力がなくなったら
生きてる意味がないってことですか。
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十文字 |
「60になってもまだ生きてたら
あらゆる武器を持って突撃する」って書いてある。
小野田さんは本当にそう思ってたと思う。
小野田さんは最後の日本帝国陸軍少尉だよね。
彼にしてみたら29年間、
ルバング島のジャングルにいたわけだから、
ずっと時間は続いてるんだけど、
日本にいるぼくからしてみたら、
忽然と出現したわけですよ。
いきなり、幻の帝国陸軍少尉が。
「これは見ないでおくものか」っていう
気持ちで羽田空港に
小野田さんを撮りに向かったことを
覚えています。 |