糸井 |
自然の条件を生かして
人間が手を入れた景観を作る点にかけては、
日本人は名人ですね。
アメリカなんかだと、手を入れない自然を、
そのまま残そうというかたちで
つくるんですけど、
日本人は環境そのものに手を入れて
景観をつくりますよね。 |
川勝 |
名所旧跡の庭に多いのですが、
自分の土地でないところも、
借景として取り込みますからね。
池に山が映るようにするというふうに。
江戸時代の城下町は
すべて借景でつくられていますね。
北は弘前城、岩木山という
見事な津軽富士を借景にしていますし、
南の薩摩では、鶴丸城や磯庭園は
桜島や錦江湾などの
周囲の景色を入れ込んでいます。
日本人は、自然の景観を
庭としてとりこむ目を持っているようですね。 |
糸井 |
戦争に負けた後は、
「いいもの」「きれいなもの」
と言っている人に対しての、
「それどころじゃない!」
という一言が、いろいろなことを
ダメにしてしまったような気がしているんです。
ルールでも、美しさでも、
人が持っていたらいいはずのものを、
「それどころじゃない!」
と封印してしまっていた。
日本は、復興し終わった後にも、
「それどころじゃない!」
と言いながら
エコノミックアニマルに
なっていったようにさえ思えるんです。 |
川勝 |
ところが、ひとりひとりは、みな、
それなりの美意識を持ちつづけてきたのです。 |
糸井 |
そうなんですよね。 |
川勝 |
美しいというのは主観的ですし、
経済活動にはなじまない。
そうしたことは、芸術家はともかく、
企業戦士が言うような話ではない、
という時代が長かったですね。
ところが、この十年ぐらいで転換しました。
転機になったのは、世界遺産条約に調印した
一九九二年じゃないかなぁ。
あれは、大きいと思いますよ。 |
糸井 |
民間からすると、上のほうで
シンボリックに何かやってることっていうのは、
やっぱり見ていて、自分の鏡に映すんですよね。 |
川勝 |
ええ。
しかも、日本で最初に世界遺産になったのが、
白神山地と屋久島でしょう?
そこが、すごいんです。
糸井さん、屋久島に行かれたことはありますか? |
糸井 |
行っていません。 |
川勝 |
行くに値します。
鹿児島空港から数十分、
空にダムがあるような島です。
高いところでは
年間で1万ミリくらいの雨が降るというんです。
上に高くのびている、筒状の島。
いちばん高いのは宮之浦岳、
九州でいちばん標高が高い。
通常、阿蘇山、桜島、霧島と思うでしょうが、
違うんです。
屋久島は亜熱帯の北限ですが、
上の方は、亜寒帯です。積雪もある。
亜熱帯から亜寒帯まで、
生物の多様性の宝庫です。
人には住みにくいのですが、だからこそ、
ヤクシカとか、ヤクザルのような、
貴重な動物も残っている。
しかも、人間にいじめられていないから、
逃げないんです。
うれしいことに、屋久島の方々は、
「よく来てくださった」
と、親切心にあふれていますね。
南の島の人情は暖かい。
おじいちゃんやおばあちゃんでも
楽しめるように工夫されています。
一五分コースだとか、健脚コースだとか、
「お好みにあわせて楽しんでください」
と、やさしく歓迎してくださる。
泣けてきますよ……
島全体が、島民の庭のようなもので、
ゴミひとつ落ちていない。
ホスピタリティにあふれています。 |
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(明日に、つづきます!) |