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(※最初の数回は、惑星物理学の松井孝典さんから、 追加取材でうかがった談話を、おとどけいたします。 講演会での発言以外も盛りこんだので、来週販売の 本+DVDボックスを、たのしみにしてくださいね) (糸井重里と談話中の松井先生) そもそも、「ものをわかる」というのは、 どういうことなのでしょうか? 禅問答になってしまうけど、 「わかるとわからないの境界に達するとわかる」 ということなんです。 どこまでがわかって、 どこまでがわからないのかという 境界まで行くと、わかるということが 何なのかが、ようやく、わかるわけです。 学者なら、知の体系を 自分の分野の一点で突き破ると、 「わかるというのは何なのか」 がわかるわけで……一度わかったら、 こんなにおもしろいことはないんですよ。 つまり、わかるということが、 「知の体系」そのものなんですから。 一度でもわかれば、 何でも、言っていることの根拠は、 ものすごいはっきりするようになります。 わかりさえすれば、 わかっていることとわからないことが、 全部、はっきりしますから。 わたしはそれを知っていて、 多くのかたがたには、その境界がない。 だから「わかる」ということについて、 多くの人は曖昧としているんだけど、 「わかる」と「わからない」の 境界がはっきりわかっていれば、 おもしろいでしょうね。 「ここまではわかっているけど、 これはわからないよ」とか、 「これは絶対わからないよ」とか、 確信を持って言えるようになりますから。 研究者のプロになれば、 そのことについては、身体にしみついた 理解ができるようになるんです。 たとえば、自分が育ってきた時間というのは、 年表があって覚えているわけではないでしょう? 幼稚園の頃とか、 小学校の頃に何があったというのは、 からだでわかっていることであって、 理屈があって わかっているわけじゃないですよね。 それと、同じようなことなんですよ。 ですから、わたしは、百三七億年前、 四十六億年前、その時間のスケールを、 ぜんぶ感じてしまうんです。 それぞれの時代に、 たとえば地球磁場がどういう状況であって、 地球環境がどうで、 生物がどんなのがいるとかというのが、 プロになるとクリアに浮かぶわけよね。 だから、その感覚というのは、 「現実的」なんですよ。 研究生活をずっとつづけていて、 三五年もそんなことばかりやっていれば、 そう実感できるということは、 不思議でもなんでもありません。 実は、これは自然科学であろうが 他の世界であろうが、 プロならなんでもそうなるのではないか、 と思っているんです。 ぼくの場合は自然科学だから、 わかる、わからないという 境界を知っているわけですが、 何のプロでもいいけれど 「やっていることの境界を知っている」 というのが、 プロフェッショナルということだと思います。 わたしが、はじめて 「わかった」と思ったのは、 一九八六年に『ネイチャー』に 二つの論文を書いたときなのです。 要するに、地球にどうして 海ができたのか書いた論文で、 あのときにはじめて 「プロ」の手応えがわかりました。 論文を書くのは、 わかってしまった後になるために、 書くことは、ぼくにとっては、 見たことを確認するだけの作業です。 わかった瞬間は……ほんとに一瞬なんです。 ある程度、ザッと見えるんです。 これが他には変えがたい快感でした。 月並みなたとえですが、 よく言われるように、 霧が急に晴れて、山が見えてきたり 森が見えてくるという印象でして……。 わかるまでは、この地球に、 どうして海ができたのかというのが、 皆目わからなくて、 どう考えていいかすらも、 わからなかったんです。 それが、ある瞬間に 「こういうことなんだ」 とすべてパッとわかったんです。 たぶん、昼間だったと思います。 電車で吊り革につかまって、 中央線か何かで ぼんやり外を見ているときに、 「あ、そうなんだ。なーんだ!」 というようなことでした。 わかった後に、 一応、数値計算してみるとか、 そうやってみて確かめて、それを 論文に書くという作業に入るわけでしょう。 そうなっちゃうと、もう苦痛でした。 もっと先に行きたいんだけど、 論文を書かないと、この発見を いつ人にとられるかわからないという 恐怖心があって……たとえば、 アメリカで先に発表されちゃったら、 二番目なら意味がないんですから、 それはもう、発表は、最初でないと。 論文に定着させることは つまらないんだけど、それをやらないと、 見えたということが 単なるお話で終わってしまいますから。 ですから、わたしにとって、 論文を書くのはいつも苦痛なんです。 「早く次に行きたいんだけど、行けない」 という過程ですから。 (月曜日に、つづきます)
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2004-10-01-FRI
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