怪・その11
「デッドストック」
それは10年ほど前の出来事です。
私は学園祭のフリーマーケットで、
アメリカ空軍のデッドストックものと謳われた、
オリーブグリーンのコートとジャケットを
２千円で購入しました。
その当時、若者の間では、
軍モノファッションが流行っており、
「新品同様だし、いい買い物をしたなぁ」
と、喜んでいました。
ブティックでバイトをしていた私は、
その日からジャケットを着け、仕事に出掛けました。
バイト先からアパートまでの距離は、
わずか原チャリで５分位のものでしたが、
帰り道、２人の歩行者が飛び出して来るなど、
アンラッキーな事が続いたので、
元々霊感がある私は
「もしかして、このジャケットのせい？」
と思いましたが、
このわずかの間に、お気に入りになっていたので、
あまり深くは考えないようにしました。
アパートに帰ってシャワーを浴びていると、
なんだか誰かが覗いているような気がします。
でも、ドアは施錠したし、窓は閉まっているし、
誰もいない。
あの軍服のせい？
いいや、デッドストックと言ってたし、
気のせい、気のせい！
と自分自身に言い聞かせ、その日は寝る事にしました。
床に入り、電気を消すと、誰かが壁際から、
スーっと入って来ました。
「痴漢だ！ 鍵を閉め忘れたか！？」
そんなはずはありません。
心配性の私は、寝る前に必ず鍵を掛けたか
チェックして寝るのです。
私は震え上がりました。
布団に入って来たのは、力の強い若い男で、
とても背が高かったように思います。
私を右側から羽交い絞めにすると、
右の首筋に吸い付いてきました。
私は力一杯抵抗しました。
そして、抵抗しながらも気付いたんです、
彼が生身の人間じゃないと。
暗い中で最初ははっきり見えなかったのですが、
夜目に慣れてくると、
体全体が半透明であるのに気付いたんです。
幽霊である、と判った時点で、
霊媒師の友人が
「怖い目にあったら、とりあえず電気を点けなさい」
と言っていたのを思い出し、
左手で電灯の紐を引っ張ろうと、手を伸ばしました。
すると、その幽霊は右手に乗り移り、
左手を制しようとします。
この攻防戦を、一晩中繰り返し、
幽霊が諦めた頃は、夜が白々と明けていました。
朝の８時位になるのを待って、
霊媒師の友人に電話してみました。
昨晩の事情を話すと、開口一番、
「あんたさー、何か茶色っていうか、グリーンていうか、
そんな色の服買わなかった？」
「ええ（何で判るの？）」
「それのせいよ。すぐ手放しなさい。
でも、すごく気に入ってるみたいね。
どうしても持っていたいなら、
畳んでその上に盛り塩しときなさい
またそんなもの買って、まったく」
といった会話の後、やはり気持ち悪いので、
近所の古着屋に売りに行くことに。
うまい事２千円で、
コートとジャケットを売りさばいた私は、
その足で霊媒師の友人の店へと足を伸ばしました。
彼女は近所で雑貨や兼、占いの店をやっているのです。
「売ってきたよ！」
と笑顔で告げると、彼女は苦い顔で言いました。
「でも、頭から血が出てる男が、まだ右肩に憑いてるよ。」
（s）
2005-08-15-MON
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