おさるアイコン ほぼ日の怪談2005
怪・その12
「古い本」

私がまだ新入社員で安月給だった頃、
ふと「明日は休日なので何か本でも買って読もう」と
いつも目にしながら入った事がなかった古書店に
立ち寄りました。
三十代位の若い店主で、
置いてある本もどことなく垢抜けています。
ふと、あるダンボールが目につきました。
本だけでなく、レコードやら着物の帯やら
色々な物が入っていました。
その中で一冊のとても古い文庫本が目に入りました。
有名な作家のものですが、
その題名は今まで聞いた事もなかったので
気になり買って帰りました。
ちょっとノスタルジックな気分になり
楽しみに読み始めました。
ところがその晩から高熱が出て
翌日から起きられなくなってしまいました。
40度前後の熱がいったりきたり、
首のあたりには何か腫れ物までできてしまい
往診を頼んだり、家族中が心配する事態へと。
しかし、当の私はというと、
高熱でうなされ夢か幻の中で
ずっとある男性の映像を見ていたのです。
布団の中で病気と闘い一生を終えた男性の半生を。
その映像は、まるで映画のように
最後にクレジットまでが流れました。
そこには、はっきりとある男性の名前が‥‥。

数日後やっと高熱から脱した私が、
ベッドから落とした
あの文庫本のはずれたカバーを直そうとよく見ると
そこには何やら手書きの小さな文字がありました。
年号と日付と名前と‥‥
「あっ!」
そこには、あの夢の中の映画の最後に書いてあった
男性の名前がありました。
(ノン子)

2005-08-15-MON
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