怪・その13
「花魁淵」
奥多摩の花魁淵(おいらんぶち)に行った時のことです。
ここは昔遊女が殺された場所として有名な心霊スポットで
仲間みんなと興味本位で行ってみたのです。
車で上り坂をあがっていました。
「このへんかな?」と思うところにきた時、
エンジンが勝手に止まりました。
何度かけなおしてもエンジンがかからない。
その時気づきました。
坂の途中にいるのに、
サイドブレーキをかけていないのに
車が後ろに下がらないことに。
その時、屋根にポトンポトンと何かが落ちる音がしました。
「なんだ?」と思った次の瞬間、
バタバタバタバタッ!
とものすごい音がして車全体が揺れたのです。
パニック状態になって叫び声をあげた時、
それまでピクリとも動かなかった車が
少しずつ後ろに下がりはじめました。
そのままバックで下がり、
少し広いところで急ハンドルを切り、
方向転換をしてエンジンをかけて逃げ出しました。
恐怖のあまり、皆無言で誰も話す人はいませんでした。
でもトンネルに入った瞬間、
「わあぁっ!」と皆一斉に声をあげました。
トンネルのオレンジ色の光に照らされて、
車のフロントガラス、サイドガラス、
車中のガラスというガラスに
無数の手のあとが浮かび上がったのです。
その時、あれを見ていたのは
自分だけだったのだと知りました。
あのバタバタと言う音とともに車が揺れた時、
私には暗闇からのびた無数の白い手が
車を叩き揺らしていたのが見えていたのです‥‥。
(よしたけ)
2005-08-16-TUE
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