怪・その32
「いま、そこに」
私の祖母の体験をお話します。
もう、十年近く以前の話になります。
祖母はその年、白内障のため入院となりました。
手術を終え、あとは経過をみて
退院を待つばかりの状態でした。
両目とも眼帯を当てていました。
視覚以外の感覚で生活すると、
短期間でも、感覚が冴えてしまうそうです。
ある日、周りの入院患者も寝静まり、
眼帯をしていても闇とわかる夜。
「キイ」
と静かにドアが開き、誰かが入ってきました。
それは静かに、けれど確実に、
祖母のベッドへ近づいてきます。
そしてある瞬間、気づくのです。
今、となりにいる。
カーテンを開ける音も、そのほかの生活音もなく、
存在の確かさだけがある。
その時の熱いくらいの悪寒を、
祖母は今でも覚えているそうです。
ベッドが揺れる。きしむ。
純粋な悪意。
恐怖と混乱の中、祖母は彼、あるいは彼女の哀しさ、
不条理さが伝わってきたといいます。
彼あるいは彼女は、毎夜祖母のもとへ通い続けました。
他の入院患者から教えてもらったお経を唱えると、
すーっという音そのままに、
ベッドの揺れはおさまりました。
祖母の話す震えた声が印象的だったからでしょうか、
私は今でも、ベッドで眠れない夜に
思い出してしまうのです。
(ao)
※画面の色? 色が、どうかしましたか‥‥?
2005-08-26-FRI
|
|