おさるアイコン ほぼ日の怪談2005
怪・その31
「突然、消えた」

今から3年前の、初夏の出来事です。
当時、私は、隣町にある大きな公園まで散歩をし、
その公園の入り口の前にあるカフェで朝食をとるのが
ささやかな楽しみになっていました。

その日の朝も、いつものように、カフェの窓際の席で
通りを行き交う通勤・通学の人々を眺めながら
ぼんやりベーグルなどかじっていました。

駅から公園に向かって流れる人ごみの中に、
一組のカップルが。
どうやら近所の専門学校の生徒さんらしい
そのカップルは、ふたりともTシャツにジーンズ、
背中にはリュックを背負っています。

男の子のほうは、こう言っちゃなんですが、
あんまりぱっとしないタイプなのに対して、
隣を歩いている女の子は、
とてもいきいきした表情でニコニコしながら
彼に話しかけていて
「あぁ、この子はもてるんだろうなぁ」というタイプ。

そんな、ちょっと不釣合いな感じのふたりが、
結構早足で駅のほうから歩いてきてたわけですが、
途中、彼らが私のいるカフェに寄り道をしたんです。

私のいるカフェは、道路に面した部分が
オープンテラスになっていて、
カフェに入るには、テラスの通路をまっすぐ進んで、
ガラス張りのドアを開けなければ入れません。

オープンテラスの通路を、
肩を並べて仲良く歩いてきた二人が、
ガラス戸を押して店に入ってきた瞬間‥‥、

今まで、彼の隣にいたはずの彼女が、
影も形もなく消えてしまったんです。

私は慌てました。

もしかしたら、ドアを開ける直前までは一緒だったけど、
ドアには入らずお店の外で待ってるのかしら‥‥?

と思い、ドアの前やテラス席を目で探しましたが、
彼女はいません。

じゃ、一緒にお店の中にいるのかしら?
‥‥いいえ、
店内でテイクアウトの注文待ちをしてるのは、彼一人。
店内にも彼女の姿はありません。

では、一緒に店に向かって歩いてきたのは
私の見間違いで、
彼女はひとりで先に歩いて行っちゃったのかしら?
私はすぐに、人ごみの流れる先を見てみましたが、
やっぱり彼女はいないのです。
とすると、彼女は、どこへ消えてしまったんでしょうか?

私は、何食わぬ顔でテイクアウト待ちをしている男の子に
声をかけようかどうしようか散々悩みましたが、
結局何も言わずに彼を見送りました。

コーヒーを買い終わって、店を出て行く彼が
ガラス戸を開けて外に出て、
人ごみにまぎれて消えていくまで
目を凝らして見ていましたが、
もう彼女は現れませんでした。
(etsuko)

2005-08-26-FRI
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