おさるアイコン ほぼ日の怪談2005
怪・その30
「天井の音」

私が奈良の大学4回生だったときに起きた事です。

私の趣味は映画鑑賞だったので、
深夜にレンタルビデオ屋さんへ行くことが
習慣になっていました。

ある夏の夜、
下宿まであと少しの所に差し掛かると、

「キャハハ‥‥」

という子供らしい声が聞こえてきました。

その場所は、民家に囲まれているので、
「夜更かしをしている子供がいるんだなぁ」
くらいに思って、
その日は気にも留めずにいたんです。

しかし、いつしかその笑い声は、
深夜にその場所に差し掛かる度に
聞こえてくる事に気付きました。
さすがに気味が悪くなってきたので、
私は深夜の外出は控えるようになりました。

そして、しばらくしたある日、
友人とうなぎを食べに出かけようとしていたので、
土用の丑の日だったと思います。
夕方に出かける約束をして、
エアコンも無い蒸し暑い部屋で
友人を待っていたのですが、

しばらくすると、天井から

「みしっ‥‥」

と音が聞こえてくるんです。
はじめのうちは熱膨張か何かで
天井が鳴っているんだろうと思っていたのですが、
その音は、次第に

「みしっ みしっ みしっ みしっ‥‥」

と足音のような規則的なものに変わりました。

しかし、私の部屋は3階建てマンションの3階なので、
それはありえない筈です。
屋上へあがる唯一の扉が外にあるんですが、
そこにはいつもガッチリと南京錠がかかっています。

お化けか何かかなぁ?
と、冗談半分に考えているうちに、約束の時間になり、
友人からの連絡が来ました。
マンションの前で待っている、と言うので、
私は家を出ました。
通りがけに見た屋上への扉には
確かに南京錠がかけられていました。

階段を下りてマンションの入り口を出たところで、
向かいの家のおばあさんから話しかけられました。
顔は知っていても、話した事の無い人なので、
会話は挨拶くらいのものだったのですが、
おばあさんの別れ際の一言だけは
何を言っていたかはわかりませんでした。

まあいいやと思い、
傍で聞いていた友人に話しかけようとしたら、
友人は訳がわからない、という顔で

「かわいいお子さんですね、だってさ」

って言うんです。
私も友人も21歳の独身の男です。
いったい何が、かわいかったのでしょうか?

(k)

2005-08-25-THU
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