怪・その22
「山を撮った写真」
小さい頃、家がお寺さんの友達がいました。
お堂や境内は、子供にとって恰好の遊び場で、
お父さんであるお坊さんも、
大目に見てくれていました。
その日、いつも綺麗に片付いているお堂の奥に、
何か紙のようなものが落ちているのに気付きました。
近づいてみると、写真のようでした。
何の他意もなく、拾いあげて表を返すのと、
「それを見ちゃいかん!」という声がするのと、
ほぼ同時だったような気がします。
それは本来、山を撮った写真でした。
青空を背景に、くっきりとそびえる山。
それだけなら普通の風景写真だったのですが、
普通でなかったのは、青空の部分に、
無数の半透明の顔が写りこんでいることでした。
余白がないほどに、ぎっしりと。
おさげの女学生のような顔、
老人の顔、
侍のような顔。
大小無数の顔の、洞のような目が、
一斉にこちらを見たような気がして、
私は思わず悲鳴をあげました。
後でお坊さんに聞いたのですが、
こういった写真が、時々お寺に持ち込まれるので、
少し前にまとめて供養し、燃やしたそうです。
ところがその後、燃やしたはずの写真の1枚が、
お堂に落ちていたというのです。
気味悪いので、また慌てて燃やした。
それが、その写真だったそうです。
あの無数の顔、それに、
不思議なくらい美しかった空の青を、
今も時々思い出します。
(mariko)
2006-08-21-MON