怪・その27 「まだ新しい携帯」 今年の春のはじめのことです。 わたしは夜11時ごろ、渋谷から恵比寿にむかって、 友達と明治通りを歩いていました。 家に帰って寝てしまうにはもったいないような、 あたたかくて気持ちの良い夜で、 わたしたちはほろ酔いのいい気分で、 歌なんか歌いながら歩いていました。 そうしたら、とある交差点のわきの、 ビルの前のなんでもないちょっとした段差のところに 今ふうでおしゃれなすごくかわいい女の子が すわっているのが見えました。 携帯をいじっていたので、 待ち合わせかなとも思いましたが、 駅からも遠いし、あまりこれといって お店もないあたりだし、 意外と人気もない場所なので不思議に思い、 友達に 「あの子、なんであんなところに 　すわっているのかなぁ」 と聞くと、 友達はこわい顔をして 「えー！　誰もいないよ！」 と。 どきどきしながら通りすぎる私たちには目もくれず、 その子はずっと携帯をいじっていました。 その携帯がまだ新しい機種だったことを、 はっきりおぼえています。 あの子は、自分が死んでしまったことに気づかずに ずっと誰かを待っていたのかなぁ。 （なぁ）

2006-08-23-WED