怪・その29
「そのとき電灯が」
10年ほど前のことです。
その夜は、
珍しく子ども達がパパと寝たいと言いだし、
布団が狭くなったので、
わたしがひとり、
こどもの部屋で寝ることにしたのです。
蒸し暑い夜だったせいもありましたが、
なかなか寝つかれず、
同時になんとなくイヤな感じがしたわたしは、
小さな電灯をひとつつけたまま寝ることにしました。
そのころ住んでいたのは、
二階建てで4戸が入居できる、
古いアパートの一階の一室。
二階の二部屋は空き室でした。
やがて、わたしの寝ている部屋の天井が、
バンバンバンバンバンバン!
バスケットボールで激しくドリブルするような、
ものすごい衝撃音がしました。
それは、移動もせず、
同じ場所でかなりしつこく鳴り続けました。
「ああ、やっぱりきた。いやだなぁ」
わたしのこういう妙なカンは当たることが多いので、
こういう場合に備えて、いつもするように、
電灯をひとつつけてあったことで、
実は少し安心してもいました。
「でも、電灯が、もし消えちゃったら‥‥」
そう思った途端、
パチ! と軽い破裂音がして、
家中の電気が全てダウン、
電灯も消えてしまいました。
それは、まさに、
誰かにわたしの思考をのぞかれたような
絶妙のタイミング。
背筋がぞくぞくぞくっとしながらも、
「停電なら、このあたり一帯真っ暗なハズ」だと思い、
また、そうであってほしい一心で、
そっと起き上がり、
カーテンを開けて外を確かめて見ました。
すると。
周囲の家々には電灯が明々とついていました。
街路灯も、そして、同じアパートの隣の窓も。
我が家だけが、停電だったのです。
その事実に思わず叫び声をあげそうになった瞬間、
電気が復活、電灯もつきました。
恐ろしくなって、
その夜は結局子ども達で狭くなった布団に
もぐりこみました。
その古いアパートは、
私たちが引っ越した数年後、取り壊されたそうです。
(K)
2006-08-25-FRI