怪・その34
「上と、前に」
女子大時代、寮に住んでいたころの話です。
寮は八畳一間の二人部屋で、
家具は備え付けの二段ベッドとロッカー、机のみ。
お風呂もトイレも共同の中、
カーテンをつけたベッドの中だけが、
寮生の唯一のプライベートルームでした。
ある日曜の朝。
前日合コンで夜更かしをした私は、
上のベッドで爆睡していたのです。
しかし突然、下のベッドの子の大声で、
起こされてしまいました。
「いやだっ、もうやめてよっ」
ひどく切羽詰った声だったので、
私は驚いてベッドのはしごを叩きました。
「どうしたの」
答えはありません。
寝ぼけたのかなと思っていると、
おもむろに彼女はベッドから出てきて、
私を見上げました。
「‥‥ずっとそこにいた?」
「うん、寝てたよ」
「降りてこなかった?」
「来ないよ。どうしたの?」
友達は妙な顔をして、言いました。
「今、あんた、はしごから降りてきたんだよ。
そして部屋の中、ぐるぐる歩き回って。
何してるのって声かけたら、
いきなり、ぱっとはしごのところに来て、
カーテンの隙間からあたしのこと、
じっと覗き込んで‥‥。
そこからぴくりとも動かなくなったから、
あたし気味悪くなって、やめてって言ったんだよ」
「そんなはずないよ、
だって今、あたしここにいるじゃん」
何だか気味が悪かったのですが、
とりあえず寝ぼけたということで、
その場はお互いに無理やり納得しあいました。
ところがその後。
他の寮生が、全く同じ出来事を経験したのです。
奇妙なことに、私たち3号室から始まって、
次は6号室、
その次が9号室‥‥。
9号室の子は、驚いてカーテンを開けたとき、
はっきり目の前に
上のベッドの子がいるのを見たそうです。
同時に、上の子が「どうしたの」と言って
下を覗き込んだので、
上と前に、同じパジャマの同じ子がいるのを
目撃したわけです。
でも、上の子に、その「もう一人の子」は
見えなかったとか。
怖いというより、どうにも奇怪な思い出です。
(ma)
2006-08-30-WED