おさるアイコン ほぼ日の怪談2006

怪・その36
「またくる、と言って」

母が眠っていた時です。
ベッドがどん、どん、と揺らされました。

母は、父がふざけて
足ぶみしているのだと思いました。
強く踏まれそうになって、ハッキリ目醒めると、
すぐに気付いたのです。
(おとうさんじゃない‥‥。)
父は別室で仕事中でした。

と思ったとたんに「それ」は
ドサッと母の上に降り、
何か言葉をかけてきました。
この世の言語ではありませんでした。

あまり聞き入ってはまずいと感じ、
無視をつづけました。
さいごのほうで聞き取ったのが
「またくる」というような意味でした。
そうしていなくなりました。

母はまだ怖くて固まっていました。
その直後、同じものはまた顔の正面に
どかっと現れました。

ひたいに触れる距離で何度かべろり、
と言いながら、目の間をなめました。
なんだか馬鹿にするふうでした。

目の前に見えたのは、
暗闇を透かしたどろりとした影でした。
ゼリー状にも見えたといいます。
「またくる」と言って、
いなくなってみせながら、実は、
ずっと部屋にいたのだと母は知りました。

でもあまりに無意味です。
恐怖を通り越し、母は淡々と私に聞かせました。

私が嫌だったのは「それ」が
嘘をつくだけの知能をもっていることです。
すごく悪意のようなものを感じました。

そういった現象に詳しい人に聞くと、
「よくないものだね‥‥」と言って
みるみる顔色が青くなり、
塩を盛るように言われました。

母の姉達もよく、妙なものと遭います。
好んで聞きたい内容ではありません。

(砂糖・♀・20代)


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2006-08-30-WED