怪・その38
「見つめていた上司」
今から20年ほど前の話です。
私が新卒で入社した某書店で、
昼休みに、先輩から言われた宅急便の宛名書きを、
一人事務所で書いていました。
大きい作業机で書いていたのですが、
人の気配を感じ、ふと向かい側を見ると、
上司が座ってじっとこちらを見ているのです。
「いつの間に来たんだろう?
ドアが開く音もしなかったのに」
と思いながらも、
私の仕事ぶりを見に来たに違いない、と、
一生懸命何枚か書いて、また顔を上げると、
誰もいないのです。
人が出て行った気配も音もしなかったのに。
恐くなって事務所を出ると、
向かい側からさっきの上司が、
にこやかに楊枝をくわえて、
先輩達と歩いてきて、
「お前も昼飯食ってこいよ」
と、私に声をかけてきたのです。
ますます恐くなった私は、
先輩にこっそりと
上司が昼ご飯中に席を立ったか聞いてみました。
しかし上司と先輩はずっと一緒にいたそうです。
先輩もちょっと恐そうな顔をして
「ドッペルゲンガ―ってやつかもしれないから、
本人には言うな」
と、私に釘を刺しました。
その上司はその後転勤してしまい、
私もその会社をすぐに辞めたので、
その後の上司の様子は知りませんが、
今でも思い出すと、鳥肌が立ちます。
(あすか)
2006-09-01-FRI