おさるアイコン ほぼ日の怪談2008
怪・その4
川の向こうに


以前お付き合いしていた人は
「よく見える人」でした。

ふたりで温泉旅行に行ったときのこと。

昭和の初めに建てられた旅館に泊まることになり、
その旅館には川沿いに露天風呂があるということで、
夜にひとりで入りに行きました。

川向うの露天風呂までは
ひとりがやっと通れるくらいの吊り橋がありました。
あたりは真っ暗で、小さなランプの明かりだけ。

わたしは霊感などなかったのですが、
さすがにちょっと怖くなり、
くるりと向きを変えて足早に部屋へ戻りました。

部屋に入るなり彼が顔色を変えて
「おまえ、誰か連れてきただろう」
と言いました。

確かに部屋の温度が
少し下がったような気がしました。

でもわたしには誰を連れてきたのかもわからず、
どうすることもできないでいると、

「しょうがないな、
 部屋から連れ出していくから、
 ひとりで待ってろ」
と言われ、

「ひとりになるのは嫌だ!」
と半泣き状態のわたしを残して、
彼はゆっくりと部屋を出ていきました。

すると部屋の温度が上がった気がしました。

それでも怖くてたまらず、
テレビを大音量で流してじっと待っていたところ
彼が戻ってきました。

「おまえは男の人を連れてきたけど、
 露天風呂のある川の向こう側には
 女の人と子供が立ってた」

彼によると、危険な(?)霊は
赤く光るのだそうで、
その女の人と子供は川のこちら側からでも
赤く光っているのがわかったそうです。

その夜は寝る気にもなれず、
次の日の朝、早々に帰途につきました。

あのとき、川の向こう側に行っていたら
わたしはどうなっていたのでしょうか。

(ナヨミ)
「ほぼ日の怪談」にもどる もう、やめておく 次の話も読んでみる
2008-08-04-MON