怪・その16
落ちていく顔
自分が大学受験ために徳島へ行き、
ビジネスホテルに宿泊した時のこと。
明日に備えて早く寝るかな、と
10時頃ベッドに入ろうとしたら、
なんか外がうるさい。
何だろうとカーテンを開け下を見ると
何やら4、5人の人がこちらを指差している。
と、思った瞬間、
上から何かが、窓の外をさっと横切った。
人だった。
飛び降り自殺をしたようで、
落ちていく顔を見てしまった。
下ではキャーっと言う悲鳴が聞こえ、
20分もするとパトカーや
救急車がやってきて大騒ぎ。
自分はというと、
厭なものを見てしまったなぁと思い、
その夜は受験前日だというのに眠れなかった。
翌朝、ホテルの従業員からも
眠れなかったでしょ? と挨拶され、
受験の結果も散々で、
結果を見なくても落ちたなと分かるくらい。
まあ、仕方ないと諦め、
その日は実家のある静岡へ帰った。
その翌日から、受験の疲れと
慣れない電車旅も手伝い、
インフルエンザにかかって、
40度の高熱に2日間うなされた。
その間、看病してくれていた祖母から
後に聞いたのだが、
うわごとのように誰かの名前を言い続けていて、
たまに見ると布団から抜け出して
部屋の窓から軒下に落ちていたらしい。
1階で寝てたから良かったが、
自分の部屋のある2階で寝てたら
大怪我をしていたと言われ、ゾッとした。
その間、朦朧とした意識の中で見ていたもの。
トントンと窓を叩く音がして、
カーテンを開けると上から落ちてくる人影。
自分の目の前で
急ブレーキでも掛けたかのように止まり、
目を見開いて一言。
一緒に行こうよぉ。
(いくや)
2008-08-13-WED