怪・その19
寂しい父と
父は晩年、親兄弟と縁切りのようなできごとがあり、
母と慣れ親しんだ土地を離れ妹夫婦と暮らしました。
転居してすぐに発病、
数年間入退院を繰り返し亡くなりました。
父の死は、父の身内、友人にも知らされず、
転居先に父を知る人もなく、
父の思い出話も出ない、
やるせなく寂しい葬儀でした。
葬儀から帰宅。
疲れたせいか、
私は和室に倒れこむように眠っていました。
ふと足音が近づいてきます。
夫かな? と思っていると、
私の横にきて顔を覗き込みました。
私の顔に息がかかりました。
父のタバコの匂い‥‥
(お父さんだ!)と思ったとき、
「涼子、行くか?」
「涼子、いっしょに行くか?」
父の声がしました。
一瞬考えました。
でも、子どもはまだ小さいし‥‥、
仕事も中途半端だし‥‥。
「行けない。今、行けない」
叫ぶと、父はにっこり笑って消えました。
あのときは、私があまりにも寂しがっていたから、
父が会いに来てくれたのだと思っていましたが、
最近になって、父も寂しかったのだろうと思います。
お父さん、いつか必ず行くから、待っていてね。
(涼子)
2008-08-15-FRI