怪・その22
鏡の中の足
去年の夏、
私のおじいちゃんが癌で大阪の病院に入院し、
海外に住んでいる私の家族は
3週間ほど日本へ帰国しました。
おじいちゃんの手術は成功し、
リハビリを受けている段階でしたが
私たちは毎日病院にお見舞いに行きました。
お見舞いに行ってから1週間くらい経った頃です。
病院の人気のない廊下を通って
病室と外を行き来していた私たちは
いつも通りに廊下を歩いていました。
途中、静かなトイレがあり、
私と母は中へ入りました。
個室から出てきた私は
もうすでに手を洗っている母の
反対側の洗面台に向かいました。
両方の洗面台の壁の上には鏡があり、
私は鏡と鏡が映す、
あの終わらない反射を見るのが好きで、
母の肩越しにそれを見ようとし、顔をあげました。
鏡に映るものは一見、
なんの違和感もありませんでした。
母がいて、鏡の反射があり、
母の方から出られる出口の壁がありました。
しかし、その壁の下の方に、
皺くちゃのおばあさんの足が
倒れたように突き出ていました。
おばあさんの足には草履。
藍色の、井桁模様がついた
七分丈のもんぺを履いていました。
私は入院中のおばあさんが倒れているのかと思い、
戦争時代のような格好に違和感を持ちながら
振り返っておばあさんを助けようとしました。
しかしおばあさんはいませんでした。
出口の前には父と妹がいて、
おばあさんが立ち上がって去ったとしても
目撃されるはずなのに、
近くに居た母、出口の前の父と妹は
誰もそんなおばあさんは見なかった、と。
その後はなるべく
その廊下とトイレを避けました。
(塩)
2008-08-18-MON