おさるアイコン ほぼ日の怪談2008
怪・その34
よける


私は看護師です。
20年病院勤めをしていますが、
自分は不可解な現象に
出くわしたことはありません。
それでも、あのときの体験は
思い出すたびにぞっとします。

大学病院で夜勤の日、
各病室を回っていました。
私の担当の患者さまは
落ち着かれた様子でしたが、
同僚が担当する患者さまに
容態が思わしくない方がいらっしゃったので、
私も様子を見ておこうと廊下にでたところ、
もう一人の後輩が廊下の奥から
こちらに向かってくるのが見えました。

彼女は
よろよろしているように見えたのです。

「どうしたの、めまいでもするの?」

しかし、
「どうしてですか、
 なんともありませんよ」
との返事。

「あなた、まっすぐ歩けてないわよ」

「ああっ、またよけちゃった」

「何を」

「そこにいる人をよけちゃうんです」

「誰も、いない‥‥」

といいつつのぞいた彼女の顔が悲しそうで

「見えるの?」

ときくと

「見えるときもありますが、
 見えないで
 無意識によけることも多いです。

 誰にもいわないでください、
 友達をなくすので」

彼女によると、
容態の思わしくない方がいるときに
多いのだそうです。

幼い頃からで、慣れっこだそうですが、
このことをそのまま話して
何人もの友人と疎遠になったことが
悲しいのだそうです。

(みんと)
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2008-08-27-WED