おさるアイコン ほぼ日の怪談2008
怪・その36
助手席のドア


お盆明けのある日、
部活の友人と夕飯を食べているときでした。

普段は笑顔を絶やさない彼女が
いつになく真剣な表情で、
「そういえば、
 昨日不思議なことがあってね‥‥」
と、語りだしました。

前日、つまりお盆最終日の夕方、
友人は部活で使用した荷物を片付けるために、
倉庫へ行ったのだそうです。

荷物が重いので車を倉庫のすぐ傍につけ、
50mほど離れた管理人室へ
鍵を借りに向かったのですが、
その時少しの間だからと、
車に施錠をしないで離れたのだそうです。

鍵を借り、
お礼を言いながら管理人室を出た彼女は、
ふと自分の車を見ました。

すると、助手席のドアが、
まるで誰かに押されたかのように
バタン、
と閉まるのが見えたのだそうです。

とっさに友人の頭に浮かんだのは、
「車上荒らしかも!」ということ。

逃げるところなら姿が見えるはずなのに
辺りには人影が無いので、
きっと今、中にいるはず。
そう思い、彼女は恐る恐る
自分の車に向かったのだそうです。

そして、助手席を覗いたところ‥‥、
「誰もいなかったんだよね」。

一応貴重品も確認しましたが、
盗まれたものも何もなし。
きっと閉め忘れたドアが、
風で勝手に閉まったのだろうと、
ほっとしつつも特に不思議に思うこともなく、
彼女は荷物をトランクから出し、
倉庫にしまいました。

そして倉庫の鍵も元に返し、さぁ帰ろう、
と車に乗り込んだ瞬間、
はっと気付いたのだそうです。

「私ね、その日、
 一回も助手席のドア触ってなかったの」

彼女が触れた覚えのない助手席のドアが、
なぜ勝手に開いて、閉まったのでしょうか。
それに気づいた瞬間、彼女は怖くなり、
必死の思いで家へ帰ったそうです。

この話を聞いて他の友人たちは
「怖い!」と騒いでいましたが、
私は「ああ、やっぱりな」と
落ち着いた気持ちでいました。

彼女が不思議な体験をした、
まさに同じ日の同時刻。
私の家では、
飼い猫があらぬ方向を見て威嚇し、
私自身も見えない何かが
部屋を横切る気配を感じていたのです。

お盆の最終日は、ご先祖様があちらへ帰る日。
私の家や彼女の車も、
もしかしたら通り道にあったのかもしれません。

(チコ)
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2008-08-27-WED