怪・その39
私には見えない
小学生の頃の話です。
その日は朝から雨が降り続き
校舎内も薄暗くジメジメとしていました。
私は数人の友人と放課後の教室に残って
おしゃべりをしていました。
途中、その中で一番仲の良かったYちゃんと
一緒にトイレに行くことになり、
トイレまでどちらが早く走れるかと競争しながら
四つの教室と階段の踊り場を走り抜けました。
一秒ほどの差で私が先に壁にタッチし、
二人で「勝った」「負けた」と
笑い合っていました。
すると、そこでYちゃんは
急に不思議そうな顔をしながら
「‥‥あそこに立ってた子、変わってたね。」
と言いました。
私は廊下を走る間、誰も見かけなかったので、
不気味に思いながらも
「‥‥え? どんな子?」
と聞くと、Yちゃんは
「今、階段の踊り場にいた男の子よ。
今日いくら雨だからって、
校舎の中で傘ささなくてもいいのにね」
と言うのです。
私は傘をさした男の子、なんて見ていません。
背中を気味の悪い
ゾーッとした感覚が走りました。
私は一瞬迷いましたが、
怖くて黙っていることが出来ず
「‥‥そんな子、いなかったよ‥‥」
と言いました。
するとYちゃんは
私がその言葉を言い終わらないうちに
私を見つめたまま突然、
「ギャー!!」
と大声で叫び
私から逃げるように、
泣きながら教室へと走り出しました。
私は驚きながらも
その後を追い走り出しました。
その時に階段の踊り場を見ましたが、
やはり誰の姿もありませんでした。
教室に着いてもYちゃんは泣きやまず、
私も他の友人達も困惑していました。
しばらくして落ち着いたYちゃんに
どうしたのかと聞くと
Yちゃんは少し言いにくそうな表情をしながら、
私を見て、
「R(私)が
『そんな子いなかったよ』
って言った時、途中で、Rの顔が、
さっきの男の子の顔に変わってしまった」
と言い、また泣き出してしまいました。
私は顔面から血の気が引き、
友人達もみな、恐怖につつまれた表情になり、
黙ってしまいました。
その帰り道の途中も
恐い気持ちは消えることはなく
振り返るとそこに、
見てもいない男の子がいるような気がして
私は何故か、
決して振り返ってはいけないと思いながら、
家へと急ぎました。
(R子)
2008-08-29-FRI