怪・その41
持たされた人形
小学校4年生の時だったと思います。
その頃、訳あって
伯父夫婦の家に預けられていた私は、
その家の茶箪笥に
愛らしい張子の人形を見つけました。
それは小坊主さんのようで、
筆で細く描かれた目元が
微笑んでいるようにも見え、
一目で気に入った私は、
「あの小坊主さんの人形かわいいね」と、
何気なく伯母に言いました。
すると伯母は言うのです。
「あれは本当は女の子なのよ。
別の親戚の子が来た時、
張子の髪を剥がしちゃったんだよ」と。
それを聞いてあらためて人形を見ると、
なにかさっきまでの愛くるしさが消え、
反対に気味の悪いものが湧きあがってきて、
私はその人形と視線を合わせないようにして
日々を過ごしました。
ところが、そのしばらく後、
伯父夫婦の家から自分の家へ戻った私の
私物を入れたバッグの一番上に、
あの人形が入っていたのです。
驚きと恐ろしさで、
私はすぐに伯母に電話をかけました。
すると、
「Mちゃん(私です)、
その子のこと気に入ってたみたいだったから、
玄関で入れておいたんだよ」
私は、私には告げずに
その人形を持たせた伯母に対して、
なんとも言いようのない違和感を感じました。
伯母は少しばかり勘の強い人でもあります。
さらに伯母は言うのです。
「Mちゃん、髪の毛を付けてあげてね」‥‥と。
しかし私は
そんな伯母の言葉を素直に受け入れられず、
人形をそのまま放置しました。
もはや、少しもかわいいという気持ちは
持てなくなっていました。
その晩から、私は悪夢を見るようになりました。
内容はハッキリとは覚えていませんが、
「お前には悪霊が憑いている」
というようなことを、頭の中で繰り返し言われ、
目が覚めると寝汗で体中ビッショリです。
3日ほどそんな夜が続きました。
思い当たることと言えば、
あの人形以外ありません。
恐怖に慄いた私は、
その日のうちに人形に
毛糸で作った髪をつけてあげました。
すると、その夜から嘘のように
悪夢を見なくなったのです。
後日、再び伯母に電話をかけて事の顛末を話すと、
伯母はこう言いました。
「そんなことがあったの‥‥。
だけど、人形は、夢や事故で、
して欲しい事を訴える場合があるからね‥‥。
何ともなくて、ほんとうに良かった‥‥」
なぜ伯母は、
自分で髪を付けてあげなかったのでしょう。
黙ってこっそりと
私に持たせるような真似をしたのでしょう。
あの人形は引越しのさなか紛失し、
今となってはどこへ行ったのかわかりません。
(めみたん)
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