怪・その47
さまよう女性
今年の、寒い冬の夜の出来事です。
その日はとても寒い日で
仕事が終わって自宅の最寄り駅を出ると
雪がちらつきはじめていました。
駅から自宅まで15分程度歩くので
缶コーヒーを飲みながら帰ろうと
コンビニに寄る事にしました。
栄えた通りではなかったのですが
私の前後には結構人がいて、
また街灯があり、まだコンビニ以外の商店も
まだ開いており、周りは明るい状態でした。
コンビニが見え始めた頃、
30メートル程先に赤いTシャツを着た
女性と思われる人が歩いていました。
「この寒い中によく半袖でいられるなあ」
などと思いながらもたいして気には止めずに
コンビニを目指しました。
コンビニに到着し、
ドアに手をかけたところで
向かいからさっきの女性がこちらへ向かって
歩いてきていました。
その女性もドアの方へ向かってきたので
「この人も入るのかな?」と思い
ドアを開けて道を譲りました。
その女性は軽く会釈をして
私の前を横切り先に店内に入り
続いて私も店内に入ったのですが、
そこで異変に気がつきました。
その女性の左手の肩から先は無く、
しかも引きちぎられたように
肉片がぶら下がったままなのです。
傷口からはおびただしい量の血がしたたり
歩く先々に赤い水たまりを作っています。
先ほど私が赤いTシャツと思っていたものは
白いTシャツに
大量の血液が染み込んだものだったのです。
すぐさまこの世の人間ではないと
確信しました。
だれも気がつかず悲鳴が上がらないことから
周りの人には
その女性が見えていないからです。
怖くて逃げ出そうとも思ったのですが、
店内の方が人が多く明るかったため
私は立ち読みをするふりをしながら
女性が立ち去るのを待ちましたが、
本を持つ手と膝はガクガクと震え
ひっきりなしに吐き気がしていました。
恐る恐る女性を見ると
買い物している人ひとりひとりに
何やら話しかけているのです。
話しかけられた方は気がついていないらしく
商品を手に取ったまま
女性を無視しているように見えました。
女性はついに
雑誌コーナーまで辿り着きました。
そこには私を含め3人いて、
女性は一番右端の人に
何やら話しかけています。
いつのまにか辺りには
噎せ返るような血の臭いが充満していました。
今すぐ逃げ出したいのですが、
体がいうことを聞かず
とうとう女性は私の隣の人に話しかけています。
しかし隣の人は気がつかないようで
雑誌を読み続けています。
あきらめたのか女性は
私の方へ向かってきます。
女性は私のすぐ隣までくると‥‥
「すみません。ナンバーが○○330“さ”の
○○−○○の黒い車を見ませんでしたか?」
その声は悲しく
今にも泣き出しそうな声でした。
私が目を合わせ
「ごめんなさい。みていません。」
と答えると、女性は丁寧に
お辞儀をして去っていきました。
後ほど調べると10年位前に
その通りでひき逃げ事故が
発生していたようです。
犯人は逮捕されたとのことですが、
その女性はその事を知らずに
事故の際に走り去る車のナンバーを覚えて
そのナンバーの車を探しているのだと思います。
その日から、
彼女にもし会ったら
そのことを伝えよう、と思いながら
その通りを歩いています。
(タッチー)
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