おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その9
撫でる手


あれは今から十数年前、大学の卒業旅行で、
野郎3人、食事を豪勢にするため移動を車、
宿泊をテントにして、
四国を一周する途中に起こりました。

その日は夕方から激しい雨で、
夕飯、お風呂を終え、あとは寝床をと、
車を走らせていました。

しかしなかなか雨を凌げ、
テントを張れそうな場所が見つかりません。
しばらくしてメンバーの一人が
「県民運動広場」と書かれた看板を見つけ、
「あそこならいい場所あるんじゃない?」
と言ったので、一路運動広場へ。

着いたときから僕は
いやーな感じがしていたのですが、
目の前に体育倉庫が一棟あり、
ちょうどテントが張れる分くらい、
屋根がせり出ていました。

友人2人はいい場所だと用意を始めましたが、
どうしても僕は嫌で
「場所変えよう」と提案しました。

しかし「遅くなったし、他に場所ねーだろ!」
と聞く耳を持たれず、テントを張り終えました。

テントは3人横になると一杯の
小さなものでした。
僕は倉庫にくっついた壁側に寝そべり、
何分か経った頃です。

広場の入り口の方から宗教的な感じの
無数の太鼓を叩く音が聞こえてきました
「タタン、タタン」。
小さい明かりもいくつか見えたので、
場所柄お遍路さんか何かの参拝団かな?
と友人と話していましたが、様子が変です。

音はどんどん大きくなり、
どんどん近づきます。
一つの明かりが僕らのテントを照らしたとたん
一斉に音と光が一気に近づいてきました。
友人の1人が、
「変なのに巻き込まれるのも面倒だから
 寝たふりしよう」
ととっさに小声で言ったので、
電気を消し寝袋へ。

ものすごい恐怖の中、
音と光は確実に僕らのテントを目指しています。

テントの目の前まで来たなと感じた瞬間です。

音と光が止みテントの四方、
壁という壁に無数の手という手が
テントを撫で回し始めたのです。

僕の横側は倉庫の壁のはずなのに、
ぼくの横のテントの壁も
無数の手が撫でていて
怖くて怖くて声も出ません。

いや声を出したら中に入られると
3人とも感じていたのでしょうか、
誰一人声を出しません。

あまりの恐怖に立たされると
変な防衛本能が働くのでしょう。
「ここは、寝ないと、寝ないと」
テントを揺さぶれるなか
無理やり目を閉じ寝ることに。

翌朝、天気良くなり目覚めた3人は、
あの手って‥‥、と恐怖に引きつっていました。

(きなこの人間のお父さん)


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2009-08-09-SUN