怪・その10
待って!
妖怪を見たことありますか?
私はあります。
10年以上前の夏、夜中にふっと目覚め、
そのまま眠れず天井をぼんやり眺めていると、
きらきらまたたくものが見えました。
またたくといっても、ごく弱い、
蛍のようにやわらかな小さな光の集まりで、
それが鳥の羽が落ちるように、
ゆっくり左右に揺れながら
私の上に降りてきました。
よく見ると、
それは10歳ぐらいの男の子でした。
その子の輪郭だけが、
暗闇に小さな光を放っていたのです。
最初「妖精かな?」と思い、
私の布団に降りるのかと眺めていると、
それは途中ですっとそれ、
部屋の隅に消えて行こうとしました。
それが可愛らしく、好奇心もあり、
もっと見ていたい気がして、
私は慌てて消えようとする後姿に向かい
「待って!」
と、心の中で、大声で叫びました。
その瞬間、
その子が振り返り、
顔だけが1mぐらいに大きくなり、
その大きな顔が部屋の隅から
勢いよく私に向かってきて、
「さっきからうるさいんだよ!」
と声ではない声で怒鳴りました。
(音ではなくテレパシーのようなもの)
私がひるんだ一瞬、
その子は消えました。
後は、何もなかったかのように
その子の気配も消えていました。
何だったのだろう?
呆然として、
私はしばらく布団の上に座っていました。
気持ちが落ち着いてから、
あれはたまたま我が家を通った
妖怪なのだろうと思いました。
そして、誰だって道を歩いている時に、
知らないやつからじろじろ見られたり、
通り過ぎようとするのに
お前を見たいからちょっと待てと言われたら
腹が立つだろう、とも思いました。
(DAN)
2009-08-11-TUE