怪・その15
真夜中の学校で
私が高校生の時の話です。
当時私は、男女数人の仲間たちとともに
水泳部に属していました。
後輩にはインターハイまで
出場するような選手もいたのに、
私たちは完全に遊び目的で、
練習もほどほどに毎日遊んでいました。
夏休みのある夜、
私たちは先輩や後輩も誘って、
プール脇にある部室で夜通し合宿をしよう!
と企画しました。
12〜3人くらい集まったと思います。
プールは校庭の隅にあり、
通りから水着姿の生徒たちが見えないように
周りを植え込みで囲われていて、
騒いだり明かりをつけたりしなければ
バレないだろう、と思ったのです。
暗くなってからみんなで集まり、
買い出したたくさんの食べ物や飲み物で
大いに盛り上がり、夜はどんどん更けていきました。
真夜中を越えた頃、当然のごとく話題は
怪談話になっていました。
そして誰かが「肝試しをしよう」と言い出したのです。
校舎内には入れないので、校舎の周りや校庭、
部室棟などをぐるっと回って戻ってくる、
というコースにしました。
私はそのとき
気になっていた男の子とペアになったので、
正直怖い思いよりも浮かれた気持ちの方が強く、
特別何も起きないまま一周して
プールに戻ってしまいました。
ところが最後に戻ってきた後輩が、
「中庭の方から、テニスをしてる
音がしたんですけど‥‥」と一言。
時間はもう夜中の3時を過ぎていました。
他の誰も肝試し中に何もなかったので、
「こんな時間に部活練習してるわけないよね」
などと言いつつ、
全員で面白半分で中庭に向かいました。
すると確かに、
ボールを打つ音が聞こえてくるのです。
みんな顔を見合わせ、
示し合わせたように無口になりました。
「やっぱ、やめない?」
と一人の女の子が言ったのですが、
こちらは集団だし、
好奇心も手伝ってそのまま中庭へ向かったのです。
音はどんどん大きく聞こえてきます。
しかしみんなでかたまって
中庭が見える場所まで来ると、
音はピタリとやんでしまいました。
みんな恐怖がだんだん募ってきて、
いやな空気になっていました。
それを打破するように先輩が、
「気のせいだよ。誰もいないし」と
言ったので、私たちは重苦しい雰囲気のまま、
部室に戻ろうとしたのです。
そして全員が中庭が見えない位置まで戻ると、
またあのボールの音がはっきりと聞こえてきました。
もうみんなパニックです。
このままプールに戻るのも怖くなり、
近くのファミレスで夜が明けるまで
待とう! と行くことにしました。
私はその時、かたまった集団の後ろの方にいました。
そして早足で校舎の横を通り過ぎたとき、
何気なく、校舎の方を見たのです。
突然、窓ガラスが中から
どんどんと激しく叩かれました。
誰かが中から両手で窓を
バンバン叩いているような感じで、
ガラス自体が大きく揺れていました。
びっくりして立ち止まると、隣を歩いていた子が
恐怖に耐えきれなくなったのか、
「いやーっ!」と叫びながら走り出したのです。
私たちより前にいた人たちは、
何が起きたかわからないまま、みんなその声に
つられるように、パニック状態で
いっせいに走り出しました。
私もこんなところに
取り残されてはならないとの一心で、
全力疾走しました。
叩かれているとき、
街灯がそばにあったにも関わらず、
窓の中は真っ黒でした。
真っ暗で何も見えない、ではなく、
真っ黒だったのです。
それからのことはあまり覚えていません。
朝日が出て随分経ってから、
荷物を取りにみんなでプールに戻り、
家に帰りました。
戻ったときには、もう他の部活の生徒たちが
練習を始めていて、
いつもと変わらない学校の姿がそこにありました。
(ぐらるばむ)
2009-08-13-THU