怪・その17
休日出勤
知り合いが体験した話です。
その人は、すごく怖がりです。
なのにかわいそうに、怖い経験をしてしまいました。
その人が、休日出勤をしたときの話です。
お盆期間中だからでしょうか、
人気も少なく、
いつも聞こえる外からの音も無くて、
室内は静かだったそうです。
日も落ちて薄暗くなり始めた頃には
仕事を終わらせて、
残っていた同僚と一緒に、
照明を落としながら
社内のいくつかの部屋の施錠を
確認してまわりました。
さて、最後に1箇所だけ施錠を残して
室内を見回すと、
同僚がパーティションの内側でじっとしています。
「な〜んだよ、
そんなところに隠れようとしたって無駄だよ、
○○ちゃん、
くだらないことやってないでさぁ」
いつも、おトボケないたずらをする同僚に
笑いながら近づきました。
しかし、無反応なうえ、
薄暮の中でみるうつむき加減の顔に
違和感を覚えたそうです。
まるで空気が、ずれるような感じというか‥‥
と、後ろから
「お待たせ」
と同僚の声がしました。
えっ
‥‥振り返った数秒の間に、
それは消えてしまいました。
触れ合うほど近いところに立っていたのに。
同僚を置いたまま転がるように外に出て、
街の喧騒や蝉の鳴き声が
初めて耳に聞こえてきたのだそうです。
同僚と思ってしまったそれは、
その同僚と似たネクタイに
白っぽいシャツだったそうです。
でも、見たはずなのに、顔だけは、
あのときの薄暗闇に溶け込んだようにしか浮かばず、
どうしてもどうしても
思い出せないのだそうです。
(T)
2009-08-16-SUN