おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その37
引き寄せられる


もう10年くらい前のことです。

私は故郷を離れ、
新潟に学生としてやって来て
2回目の夏だったと思います。

叔母が突然倒れたとの連絡をもらい、
母は実家からあわてて見舞いに出かけ、
私は母から、待機して居るように言われ、
とにかく新潟にとどまっておりました。

そんなある日、研究室での実験も終え、
週末だったこともあり、夜風にでもあたろうと
海岸沿いの道路を車で走っていました。

週末の夜に車を走らせる時は、
いつも昼間に行ったことのある
知っているところにしか行かないのですが、

その日に限って
まるで何かに引き寄せられるかのように、
いつものT字路を逆の方へ曲がりました。

どんどん道は細くなり、
やがて街灯もなくなり、
真っ暗な場所に出てしまい、
よくよく周りを見渡してみると、
目の前は古いお寺で、周りはお墓でした。

私はゾッとし、一目散に引き返しました。

いつものT字路から海岸沿いの道路に出て、
信号待ちでホッとして
時間を確かめた記憶があります。

確か、深夜の0時を回っていたと思います。

ついでになにげなく
バックミラーを見たところ、

そこには居るはずのない
黒い留袖を着た青白い顔の叔母が
後部座席に座っていました。

私はバックミラーを見たまま
全身が硬直しました。

その間、何秒もないのかもしれませんが、
私にはとても長い時間に思えました。

勇気を出して
おそるおそる振り返ってみると、
誰もいませんでした。

それからは、
もうどうやって帰ったのか
記憶にありません。

翌日、母からの連絡で、
叔母が亡くなったと知らされました。

時刻は、私が叔母を車に乗せた
ちょうどそのころでした。

今になって思うと叔母は
何かを伝えに来たのかも知れません。

(あかぞ)


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2009-09-01-TUE