おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その38
誰も住んだことがない?


2006年の夏、家族で引越しをしました。

自分で下見をして
2年契約で決めた3LDKのマンションでした。

マンションは新築で、
大家の代理人の話によれば
まだ誰も住んだことがない、とのことでしたが、
玄関の外と台所の戸棚の片隅には
お守りのような赤い袋がぶら下げてありました。

これらはきっと大家が付けたものだろうと思い、
気に留めませんでした。

ただ、部屋の中央にある小さい寝室と
そのすぐ横にあるトイレは、
まるで誰かがそこに長年住んでいるような
不思議な雰囲気が漂っていました。

そして私たちが引っ越してからというもの、
たて続きに仕事や家族にトラブルが起こりました。

また自宅に引いた電話は
取り付けてすぐひどい雑音が入るようになり、
台所の瞬間湯沸かし器はつけたとたん、
青白い火柱がこちらに向かって
1m程噴き出してきた事もありました。

例のトイレはというと、
ずっと“ギギギギギ‥‥ギギギギギ”という
何かがきしむ様な音が
壁の奥から聞こえていました。

普段はほとんど
そのトイレを使っていないにも関わらず、
そこからはまるで公衆トイレのような
強い異臭がしてくる有様でした。

霊の存在を信じない私は、
「きっとこの部屋は設計ミスで
 しかも設備不良がひどいのだろう」
と思っていました。

引っ越してから1年半が過ぎたある日の昼、
知人夫婦と一緒に台所で
昼食の用意をしていました。
ふと私は背後に人の気配、
それも相当大柄な人が立ちはだかる

気配を感じて振り向きました。
でも私の真後ろには誰もいませんでした。

そういうことは
そのマンションに住んでから度々あったので
「また勘違いか」と思い、
もちろん家族にも話しませんでした。

マンションの契約終了期間が
間近に迫ったある日の夜、

夫が、

「子どもたちには内緒だが、
 怖がらずに聞いてほしい。
 ここには幽霊が住んでいる」

と神妙な顔で切り出しました。

夫の話では
そのマンションに住んで数ヵ月後の深夜、
リビングでくつろいでいる時のこと、
他の寝室へと続く通路に立っている
半透明の男性と目があったそうです。

半透明の男性は身長が180cm以上あり、
しかも通路をふさぐほど
ゴツい体型だったそうです。

そして立っていたところは、
まさに例のトイレの前でした。

夫はその男がどうやら
自分たちに直接
危害を加えるわけではなさそうだ、と判断し、
賃貸契約終了間近まで
ずっと黙っていたのだそうです。

私が体験したことを話すと
夫は驚きましたが

「同じ奴かもしれないな。
 ずっと住んでるなら家賃半分払えよ」

などと冗談を言っていました。

やがて新居も決まり、
2年間暮らしたマンションの退去手続きの日、
私たちは初めて大家と顔をあわせました。

大家の姿を見て
私たち夫婦は思わず顔を見合わせました。

なぜなら大家は、
あの霊とそっくりのゴツイ体型でしたから。

その日、大家には
部屋のたくさんの設備不良を訴えましたが、
大家はその都度ただ、

「ああ、わかっている」

としか答えてはくれませんでした。

以上、私たち夫婦が本当に体験した話です。

(32階の4号室)

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2009-09-01-TUE