怪・その5
「立ち見の席から」
あれは2000年のこと。
私がまだ短大で、演劇を習っていた時の事です。
その年の中間発表の公演で
長野県にある「無言館」という、
戦没画学生(絵を勉強していたが、
戦時中に兵隊に出てなくなった方々)の
絵を集めた美術館をテーマにした
朗読劇を行っていました。
その舞台の練習中にも既に、
照明から火花が出たり、
一緒に出演していた同級生が幽霊を見たりと
奇妙な事がたくさんおきていました。
そして本番の二日目にそれはおきたのです。
幕が上がると同時に
私の出番だったのですが、
客席を見ると
一番後ろの立ち見のスペースに
観客がぎっしりと並んでいるのです。
しかし前の席は半分ほどしか埋まっていません。
「?」
不思議に思ったのですが、
出番が終わったので一旦舞台袖に下がりました。
しかし次の出番の時、
立ち見席の観客は
消えていなくなっていました。
席も先ほどと変わらず、
半分しか埋まっていません。
「?」
出番が終わった後、
入り口に居るスタッフに、
「お客さん出て行った?
立ち見席いっぱいだったのに
いなくなってるんだけど」
とたずねると、
「誰も出て行っていないし、
今日はそんなにお客さんは入っていない」
というのです。
その後まわりに話しを聞くと、
おどろいた事に
出演した同級生のほとんど(40名ほど)が
「私も見た」
と答えたのです。
その日の反省会で
「あれはなんだったのか」という話しになり、
「絵を描いた本人達が
見に来てくれたのにちがいない」と
私たちは涙を流しました。
後日、その公演を観に来てくださっていた
同級生の母親(彼女はいわゆる、見える人です)の
話しでは、
「そのとき舞台の上を
たくさんの人が飛び回っていた。」
のだそうです。
(y)
2010-08-06-FRI