怪・その15
「音声メモ」
10年ほど前のことです。
当時私は地下鉄で通勤していたのですが、
ある日の朝、いつも降りる駅で
飛び込み自殺がありました。
私が事件のあったホームを通った時には、
飛び込んだ人はすでに運ばれていった後で、
ホームから地上へ出る階段には
乾いていない血の跡が点々と続いていました。
さらに出口付近には、
べっとりと大量の血がついた担荷が
残されていて、
背筋が寒くなりました。
私は歩きながら携帯を取り出し、
母に電話をかけ、
いつも通る駅で飛び込み自殺があったことを
伝えました。
「現場を見たの?」
「ううん、見てない」
「その人亡くなったの?」
「運ばれていった後だったから、わからん」
そんなやり取りのあと、
母に「気をつけなさいよ」と言われて
電話を切った覚えがあります。
午前中の仕事が終わり、
昼休みにごはんを食べにいこうと
ロッカーからバッグを出すと、
中で携帯のランプがチカチカ光っていました。
画面には『音声メモ:1件』の表示。
普段はまず使わない機能なので、
何事かと思い
音声メモを起動しました。
そして耳に当てると、
「‥‥‥死んだ‥‥‥うん‥‥‥」
「死・ん・だ」
母のものでも私のものでもない、
低い声の、
短いメッセージが録音されていました。
すぐに音声メモを消去したのは
言うまでもありません。
それ以降、携帯にも異常はなく、
私や母の身にも何事も起こりませんでしたが、
かなり薄気味の悪い出来事でした。
自殺や殺人のあった現場で、
軽々しくその事について触れてはいけませんね。
以後、花が供えてあるような場所では、
気づいても口をつぐむようにしています。
(おっちぃの嫁)
2010-08-13-FRI