おさるアイコン ほぼ日の怪談2010
怪・その23
「おじさん」


それはわたしが
小学の5年生頃のことだったと思います。

その頃我が家では
小さな運送業を営んでいまして
何人かの従業員もいました。

その中のひとりのおじさんが
ずいぶんとわたしたち子供を
かわいがってくれていたので
かなり懐いていました。

どんなに遅くなっても
配達が終わったら電話で済ませずに
我が家に寄って報告をして帰るという
律儀な人でもありました。


ある日そのおじさんが
かなり遠くまで配達に行ったきり
消息が不明になりました。

それでも夜中に目が覚めると
トラックがやってきて
家の前で止まる音やライトの光を
部屋の窓越しに感じたので
「帰ってきたんだな」と思っていました。

朝、まだ見つからない、
と両親は心配していたので
なんで嘘つくんだろう?
と不思議に思っていました。


ところが何日か経って
家に私服の警察官が何人かやってきました。

その物々しさに凍りついていると
母が悲しそうに、
「おじさんが見つかった」と
教えてくれました。

実は、積荷を狙われて、殺されたと。

その時わたしは、
事情が飲み込めませんでした。

その夜、両親は出かけて行きました。
きっと事件のことで、大変だったと思います。

わたしは兄と妹と留守番をしながら
夕飯を済ませた後、
身を寄せ合ってテレビを観ていました。

そのうちウトウトしてきたわたしは
ソファに横になりました。

すると、リビングのドアがバーンと音を立てて
開きました。

そのとたん、金縛りになってしまい、
声も出なくなりました。

兄妹たちも驚いていましたが
金縛りはわたしだけだったようで、
兄は玄関が開いてるかもと言って
見に行きました。

しかし、どこも開いていない、
といって戻ってきました。


が、兄と一緒に、
白いごつい右手首が
宙に浮きながら入ってくるではありませんか。

そして順番に、兄妹たちの頭をなでて、
もちろんわたしの頭もしっかり
ガシガシなでて、戻っていきました。


みんななでられた後、
頭を掻いていましたが、
ほとんど何も感じなかったようです。

手が消えていくと同時に
わたしの金縛りもとけました。

不思議と恐怖は感じず、
「おじさん来た‥‥」としか
思いませんでした。

だって、生前おじさんがなでてくれた時と
同じだったんです。

その事を兄妹に言おうと思いましたが
勝手に開いたドアにすでに怯えていたので
黙っていることにしました。


後日、おじさんの葬儀が終わり
少し経って犯人も捕まったあと、
母に夜中のトラックの話や手首の話をすると、

「気づいていたんだね」と言われました。
母も同じような体験をしていたそうです。

あれから何十年も経ちますが、
成仏してて欲しいなぁ、と時々思い出します。

(み)

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2010-08-20-FRI