おさるアイコン ほぼ日の怪談2010
怪・その45
「誰もいない会社で」


主人の会社の入っている2階建ての建物は、
2階には別の会社が入っていて、
夜、2階の会社の社員の方は、
わりに早い時間に帰ってしまうそうです。

しかし残業していると、
居ないはずの2階のトイレの水が、
勢い良く出ていて、
音に気がついた人が階段を上がって
蛇口を閉めに行ったことが
何回か、あったらしいです。

そしてある時は、
夜、大きな南に面したガラス窓の外に
男性が立っていたのを
何人かの人が見ていたとか、
仕事中、机に向かっていると、
白いワイシャツの男性が目の端を通る姿を、
数人の人が見たりなど。

またある昼間、
玄関に用事で来た女性は、身震いするくらい、
嫌なモノを感じて、
1歩も中に入らなかった、とも聞きました。

でも、経営者である私の主人は、
霊感は皆無で、まったく気づいていませんでした。

しかしある日、社員の方数人から
こんなこともあった、あんな事もあった‥‥
と聞くに及んで、ホラーや怪談、幽霊、
オカルト系が全く弱い主人は
お祓いのため、人脈を駆使して、
除霊のキャリアのあるお坊さんをお願いして来て、
粛々と除霊をしていただいたそうです。

主人は怖がりだけど、信じやすいから、
これで安心して、
晴れやかな毎日をおくっていました。

ところがある日曜日、
除霊が終わって1カ月くらい経った日。

用事があって会社へ、
息子と息子の彼女と立ち寄った時のことです。

用が終わり、帰ることになり、
最後に息子の彼女がトイレに行ったのを
外で待っていました。

車の窓から、
彼女が出てくる姿をたまたま見ていると、
彼女は、少し青ざめた顔で車に近づいて来て、

「今日は会社お休みですよね?」

と言いました。

「今、トイレから出てきたら、
 隣のトイレの個室から、
 咳払いが聞こえたんです」
 お母さんは車にいたんですよね‥‥?」

と、何とも言えない細々とした声で
私に聞きました。


自分ではそういうのは感じたこともないですが、
こういったことがあった直後の人の顔を
ちゃんと見たのは、初めての経験でした。

あーいう、何とも言えない顔になるんだ‥‥
と思いました。

(K)

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2010-09-06-MON