怪・その17
「匂いを嗅ぐもの」
もう30年近く前、京都の大学に来て
1年目に住んでいたアパートでの出来事です。
いつものように就寝しているとき、
ふと、気配を感じてうっすら目が覚めました。
そのとたん体中に電気が走ったような
しびれを感じました。
ベッドの横に何者かがいる気配がします。
部屋の戸締りはきちんとしていたつもりだったのですが、
「しまった! 鍵をかけ忘れて、泥棒が入ってる!」
そう思うほどに明らかに、何かがいます。
これは寝たふりを続けていた方が安全かと思い、
じっとしていました。
しばらくするとその気配は
私の寝ているベッドの周りを
ぐるぐる回り出始めました。
しかも
「くんくん、くんくん」と
明らかに匂いを嗅ぎながらうろつくのです。
このときは完全に、
人がいるとしか思えませんでした。
その時となりの家で、朝の支度なのでしょうか、
食器を出すような音がしたかと思うと
ベッドの周りの気配が、ぴたりと消えました。
私はうっすら目をあけて周りを確認し、
そのあと飛び起きて
すべての戸締りを確認しましたが
あいている場所はありませんでした。
10年ほど前にその場所を尋ねてみましたが、
そんなに古いアパートでもなかったのに
取り壊されていました。
私の人生唯一の心霊体験でした。
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