怪・番外編その1
「帆立の串焼き」
怪談ではないと思います。
トントンさんとも違うし、
どうかと思いましたが
私には忘れられない出来事で、
いろいろ想い出してたら懐かしくて
誰かに聞いて欲しいなと思ったのでメールしました。
私の父は
私が12歳の2月に亡くなりました。
その出来事があったのは
少し落ち着いた、
多分3月末か4月(まだ掘り炬燵に入っていたし)。
父が亡くなって、わりとすぐだったと思います。
ある日の夕方、母と2人
炬燵に足をつっこみ、
座布団を二つに折って枕にし
だらだらとテレビを見ながら
たわいもない話をし
つつごろごろしていました。
炬燵の上には
近くのスーパーで購入してきた
「帆立の串焼き」が数本。
「帆立の串焼き」‥‥、
あの甘じょっぱいたれの
帆立が3個くらい串に刺さってる、アレです。
それをお皿に移し替えもせず、
ラップをビリビリ破いて取り出し
ご飯前だというのに、母娘で食べていたんです。
しばらくたって、不意に
部屋の右端の鴨居の上から
「ポトン」
と何かが落ちてきました。
「あれ?」
「なんだろうね」‥‥
鴨居にかけてある何かが、落ちたのかな。
拾いに行ってみると
それは‥‥
帆立でした。
「帆立?」
「帆立?」
甘じょっぱい、
まさに今食べている
「帆立の串焼き」の中の帆立が1個、
「ポトン」
と落ちてきたのです。
母「あらーお父さんったら、
なに二人でだらだらしてるんだって
投げてきたのね」(笑)
私「ふーん」
そうなんだとなぜかその時は、納得。
母と二人暮らしだから
他の誰かがするはずはないし、
私は絶対してないし、
母もしていないというし。
もちろん位置的にも絶対無理。
部屋の右端の上から、
すーっと落ちたきたその放物線を
私は見てたんですから、
「あー何か落ちてきた」、って。
母が食べ物で
そんなことをするはずはありません。
まして、落ちてきた帆立は
タレ付でしたから、
帆立で畳が汚れたわけで
主婦がそんなことをするはずもありません。
とすると、お父さんしかいない‥‥。
でも思えば、そもそも、いったい、
何本の串を買ってきて
帆立は何個だったのか。
母と私はいくつ食べて、
炬燵の上にはいくつ残っていたのか。
落ちてきた帆立は
買ってきた中の一つなのか。
串からどうやってはずしたのか。
なぜ帆立なのか?
その場で確かめれば良かったことが
いろいろ浮かびますが、
その時思ったのは
「お父さんはどうやって
上まで持っていったのかなー」
ということでした。
それから何十年たった今でも
帆立の串焼きを見ると思い出す
不思議な出来事です。
(k)