怪・その3

「トイレの壁から」

約27年前の私の長男が3歳のころの話です。

親子3人で、
テレビでホラー映画
(題名は全く覚えていません)を
少し気味悪い思いで見ていました。

番組が終わり、ちょっと気が緩んだときに、
長男が、あまり怖そうな表情もせずに
ぽつりと言ったのです。


「ぼく、さっきのように
 手がトイレの壁から出てきたのを
 見たことあるよ。」

「緑色の手だよ。」


私と妻は、顔を見合わせました。

とても、うそをつくとか、
脅かしてやろうということを
考えるような年齢でもないし、
表情もごく普通でした。

「いつ見たの。」

わたしが聞くと、長男は、

「よく見るよ。見たことないの?」

と当たり前のように言いました。

怖くて、その手が何をしたのとか
聞けませんでした。
妻は、強張った表情をして
固まっていました。

それからしばらく、私たち夫婦は、トイレを、
壁から手が出てこないことを願いながら、
使いました。

その後、次男が生まれ手狭になったので、
それほど遠くないところに
引っ越しをしました。

これで、やっと安心して、
トイレに行けるようになりました。

長男が大きくなってから、
その話を聞いたのですが、
全く覚えていませんでした。
今でも時々、夫婦の間でこの話題になり、
すこし背筋が寒くなります。

(奥ノ坊)

こわいね!
2015-08-05-WED