怪・その16
「あからさまなアレ」
それは今から20年くらい前のお話です。
当時私は田舎の農家に育ち、
隣はお寺という環境で暮らしていました。
そんな環境なので、
毎晩私の住む離れに上がってくる足音などは
日常茶飯事で、
そのために友人も
泊まりに来なくなってしまった程です。
そんな家で、ある初夏に祖母が亡くなり、
母屋にて葬儀が行われることになりました。
仏間を閉めきって、
そこに亡骸を安置したのですが、
仏間の隣は摺りガラスの戸一枚を隔てて
弟の部屋になっており
弟はその部屋で当初は普通に過ごしていました。
ところが深夜になって、
ダダダッと私の居る離れの階段を
駆け上がる音がして
私はギョッとして身構えたのですが、
「俺だよ、開けてくれよう」と
弟の声がしました。
ドアを開けてみると、
息を切らして
何かに怯える弟がそこに居ました。
話を聞いてみると、
深夜に入って、ちょうど1時過ぎくらいに
仏間の辺り、
摺りガラスの向こう側で
動く影が見えたとのこと。
どんなのだった? と聞くと、
「よく映画とかに出てくる
白い和服着て三角巾のアレ」
というので、あからさま過ぎて
冗談だろうと思ったのですが、
あんまりにも真剣に怯えるうえ、
疑うなら一緒に行ってくれというので
家の中庭を横切り、
縁側から仏間の様子を伺って見ると、
そこには
紛れも無く
白い服で長い黒髪を振り乱した
いかにも幽霊といった感じの影が
祖母の亡骸の上を
ゆらゆらうごめいていました。
いろいろな怪現象は
起きていた我が家でしたが、
幽霊そのものを見るのは初めてで、
本気で腰を抜かしそうになりました。
叫びそうになるのをこらえ、
弟と静かにその場を離れ、
自室に戻り、
今度は自室の窓から
仏間の方角を見てみましたが
まだ何かがゆらゆらしているように思え、
自室に鍵をかけ、
気を紛らわすのに、
夜が明けるまでアニメを見続けました。
朝になってから、
大人たちにその話をしても、
当然ながら信じてもらえませんでした。
未だに、アレほどはっきりと明らかに
ヒトでないもの。
みただけで背筋が凍りそうに寒くなって
鳥肌が立つという存在は
見たことがありません。
アレは本当になんだったのでしょうね?
(G)