怪・その30
「悲しくて淋しくて」
私がまだ独身で、
デパートに勤めていた頃のこと。
いくつかのブランドのショップを
まとめる担当をしていました。
その中のひとつのショップの店長は、
とてもサバサバしていて男前の素敵な女性でした。
同い年ということにも
親近感を覚えていました。
ある日、
「なんかカゼひいちゃったみたいだからごめんね。」
と、辛いのを我慢して
いつもの笑顔で彼女は早退して行きました。
実はインフルエンザで、
こじらせて脳症になってしまい、
その後彼女は入院して
寝たきりの状態になってしまいました。
それから数か月後の、ある晩、
私はなかなか寝付けずにいました。
いつもならバタンキュウの私がです。
どうしたんだろう‥‥、
と訝しがりながらも
ようやくウトウトしたその時、
急に砂嵐の映像に包まれました。
テレビが放送終了した時のような
ザーッという音も。
もちろんテレビはついていません。
同時に、
とてもとても悲しくて淋しくて、
不安でどうしようもない気持ちに
包まれたのです。
誰か助けてと思うほど。
時計を見ると、夜中の3時半頃でした。
翌日出勤して、
上司が売り場にやってきて開口一番、
入院していた店長が亡くなったと。
その時間が3時半だったと聞いて、
あの時だったとわかりました。
最後に挨拶に来てくれて、ありがとう。
何もしてあげられなくてごめんなさい。
まだ28歳。あまりに若い。
私は、生きていることのありがたさと
命のはかなさを、
初めて彼女に教えてもらったのです。
(ゆっこ)