怪・その7
「目を覚ませばいい?」
13年ほど前、学生だった私が、
夏休み中に夕方ソファで
うたた寝をしていた時の話です。
夢の中で、
私は一人暮らしをしていました。
L字型、3階建のうち1階で1LDK、
リビングの隣に寝室のある、
よくある間取りのマンションです。
もちろん実家暮らしだった私は、
なぜかハッキリと
これは夢だと、夢の中で認識していました。
その夢の中でも、同じ夏の夕刻。
陽が西に傾き、部屋の中は薄暗く、
少し眠気を感じた私は、寝室に向かいました。
カーテンが、
わずかばかりの隙間を残して閉まっており、
仄暗い部屋では
ベッドの輪郭が認識できる程度でした。
いざ入ろうとすると、
ベッドの端に真っ黒な影の子供が、
ちょこんと座っていました。
あぁ、幽霊だと瞬時に思いました。
驚くことなく、落ち着いた気持ちで、
夢なのだから目を覚ませば良い、
この部屋を出よう、
そう思ったその時、
その子供に腕を掴まれ、
こう囁かれました。
「夢だから目を覚ませば良いと思っているでしょ。
この部屋から出て行かせないよ。」
そこで目を覚まし、夢同様に仄暗い中、
まだ眠気の残る私は、不思議な気持ちのまま、
2階の自室に戻ろうと階段を上ったのですが、
上った正面にある私の部屋から、
真っ黒な輪郭の子供が
階段に向かって走り去って行きました。
いくら家族に話しても、寝ぼけていたのだろう、
自分の影だったのだろうと言われます。
でも、照明の位置を考えると、
私の立っていた場所から
私の影が映ることは決してありません。
今でも不思議な体験だったと思えてならないのです。
(e)