怪・その27
「何かを見ても感じても」
私が中学生の春休み。
朝方半分目が覚めかけていた時に、
布団と私の間のすき間から
透明な手がすうっと私の首元に伸びてきました。
夢うつつだった私は、
夢に出てきた友達の手と思い込み、
その手をそっと握りました。
とたんに、ビシッと金縛りにあいました。
そこで完全に目が覚めましたが、
目が覚めかけで
体はまだ眠っている時に動こうとすると
金縛りの様に動けないことはたまにある、と、
医学的にも理由があるそうなので、
怖くはなく、そのまま二度寝をしました。
次に目を開けたら、顔の真ん前に
黒っぽい塊と
その真ん中あたりに目がはっきり見えました。
兄がふざけて何かの怖い本を
私にかぶせているなと思いましたが、
「あれ、でも塊はあったけど
兄は部屋にいなかった」
と気が付きました。
するとまるで
私の心の動きがわかったかのように、
またビシッと金縛りにあいました。
さらに今度は私の寝ている枕元で
まるで正座したまま
横に移動するような感じで、
白い着物を着た黒い長い髪の女性が、
ざざっ、ざざっと左右に動いたのが
はっきりとわかりました。
顔の部分は見えているのに
まったくどんな顔かは見えないのです。
金縛りのままお祈りを必死で唱え、
部屋を転がり出て、
洗濯物を干していた母に話しましたが、
すっかり朝だったので
まったく信用されませんでした。
しかし、後日私が修学旅行に行った時に
その部屋で眠った母は、
足元に座り込むお婆さんを見たそうです。
その後そこは引っ越したのですが、
不思議なことに
毎晩うんうん唸りながら眠っていた祖父が
引っ越し先ではまったく唸らず
静かに眠るようになりました。
祖父は明治の男だったので、
毎晩何かを見たり感じたりしても、
何も言わなかったのかもしれないね、
と家族で話したものです。
(るなこ)