怪・その60
「親戚の家々を」
わたしが小学校低学年だった頃。
当時、1階の寝室で両親とわたし、
弟の4人で休んでいた時のことです。
深夜に隣のリビングの階段から、
トン、トン、トンと
誰かが降りてくる音が聞こえました。
その音で4人とも目を覚まし、
「2階に誰もいないはずなのに変だね」
と言いながら
しばらくそのままで気配をうかがっていました。
すると、階段から聞こえる足音は徐々に大きくなり、
父が確認しに2階へ行きましたが
「誰もいないし、窓も閉まっていたよ」と。
その数時間後の早朝、
父の叔父が亡くなったとの知らせがありました。
その父の叔父の葬儀後の会食の席で、
父がその音の話をしたところ
「うちも」「うちでも」と親戚中が、
同じ時間帯にそれぞれ
不思議な音を聞いたことがわかりました。
父の伯母の家では、コップを箸でたたくような音、
別の伯母の家では酒瓶を2本ぶつけるような音。
さらに、乾杯の時のグラスを鳴らす音が
何度も聞こえたので、
「ああ、来たのか」と言ったら
その音が止まった、という伯母も。
彼女は自分の弟(父の叔父)が
別れの挨拶に来たのだと察知して、
そのように言ったそうです。
父の叔父は
生まれつき心臓に病がありました。
手術をすれば治ると言われていたのに、
手術を受ける勇気がなくて、
死の影から逃れるように
毎日お酒を飲んで気を紛らわせていた人でした。
家賃収入があったので働く必要もなく、
お酒を飲んではフラフラと親戚の家に遊びに行き
行った先々でお酒をごちそうになっていました。
コップや酒瓶の音がしたのはそのせいだろうと、
皆が納得。
わたしの父は全くお酒が飲めないため
我が家には料理酒しかなく、
お酒を出したことがなかったので
階段で足音をたてたのでしょう。
後日、亡くなったその叔父の奥さんが
会葬のお礼に我が家を訪れた時に、
「私ね、うちのお父さんが
運ばれた病院で亡くなった後、
病院の廊下を歩いていたら、
後ろからお父さんに追いかけられたの。
ものすごい顔してて、
自分の旦那でも怖かった」
と言っていました。
そして
「気が小さくて怖がりな人だったから、
私に助けてもらいたかったのかもしれないね」
と。
(けい)