怪・その64
「乗務員の体験」
私はバスガイドをしていました。
春秋のシーズン中は、宿泊客が多いので
私たち乗務員は乗務員部屋、
もしくは他館(他の旅館や民宿に泊まる)でした。
とある旅館で、
別館にある乗務員部屋に宿泊した時。
その別館は乗務員部屋のみでした。
朝、携帯のアラームが鳴り
目を開けようとした瞬間に金縛。
朝は忙しいから早く起きたいのに‥‥
と思っているとドアが開き、
目は閉じているのに、
男の子が入って来るのが見えました。
寝たふりをしていると
私の顔を見て直ぐに出て行き、
何事もなく終わりました。
また他のホテルでは、
寝ようと目を閉じた瞬間。
ガチャとドアが開く音がしました。
これは‥‥と思い、薄目で様子を伺っていると
ドレスを着た、
長い髪で顔が隠れている女性が入って来ました。
部屋は真っ暗なのに、
ドレスの色がはっきり赤色とわかるんです。
その女性は私の寝ているベッドの周りを
うろうろ歩きました。
早く出て行って! と思った瞬間。
私の足元でぴたっととまりました。
足元にいるはずの女性の顔が、
突然私の目の前にズンっときて
長い髪の間から見えた目は
私の顔をしっかり見つめて「違う」と呟き
いなくなりました。
体験は宿泊先だけではありません。
山の上にあるホテルにお客様を案内し
バスの清掃を終え
車内灯をドライバーが消した直後です。
バスには私とドライバーの2人しかいないのに、
後列に人の気配を感じました。
つい先程まで私が掃除をしていた場所。
ジッと見つめていると
ガサガサとビニールを擦るような音がして、
ドライバーに「後ろから音しません?」と聞くと
もう一度車内灯をつけてくれました。
その瞬間に気配が消えました。
体験は私だけでなく、
たくさんのドライバーや先輩ガイド、
添乗員からいろんな話を聞きました。
結婚を機に退社し数年が経ちました。
あれだけ色んな体験をしたのに
今は全く見る事がなくなりました。
(a)